世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の新刊『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)が7月30日に発売される。本書は、鎌田氏の専門である「ゲーム理論」のエッセンスが、数式などを使わずに、ネズミの親子の物語形式で進むストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
 ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。最先端の研究では高度な数式が利用されるゲーム理論は、得てして「難解だ」というイメージを持たれがちだ。しかしそのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものであるはずである。ゲーム理論のエッセンスが初心者にも理解できるような本が作れないだろうか? そんな問いから、『16歳からのはじめてのゲーム理論』が生まれた。
 神取道宏氏(東京大学教授)「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」松井彰彦氏(東京大学教授)「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」と絶賛された本書の発刊を記念して、著者が「ダイヤモンド・オンライン」に書き下ろした原稿を掲載する(全7回予定)。

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アメリカの差別問題は根が深い

 私の住んでいるアメリカでは、特に最近Black Lives Matter(訳:黒人の命も大切だ)運動が活発である。この活発化は5月末のジョージ・フロイド氏の警察官による殺害が契機であるが、Black Lives Matterという言葉自体は、ずっと前から存在した。Black Lives Matterと書かれた看板やポスターを掲げている家は街中にそれなりの数あった。

 アメリカの差別問題は根が深い。私はもう13年間アメリカにいるが、いまだにその全貌を理解できていない。ちなみに差別といっても、黒人差別だけではない。私自身の経験としても、言葉に出して直接言われはしないものの、アジア人であるということで本来受けられるべきサービスを受けられない(と少なくとも私は感じている)、ということもあった。

 差別問題は、人種人種によって歴史があり、一言では片付けられない問題であるし、同じ人種の中にも様々なストーリーがあるだろう。

 差別を背景にして、人種間による経済格差が生まれ、それにより教育の機会の格差も生まれた。その格差を是正するための措置の一つが、「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」と呼ばれる政策だ。たとえば特定の人種の学生の入学枠を成績にかかわらず確保したり、入試の点数に下駄をはかせたりするというものだ。

 この政策は、教育機会の格差を是正するだけではなく、学校に多様な人種を混在させることで、子どもが「多様な属性の他人」が存在することを普通であると思い、差別感情を持たなくなる、という効果もあるだろう。問題は、アファーマティブ・アクションをどう運用するかだ。ここに、人々が社会の中でどう意思決定をするのかを分析する「ゲーム理論」が役立つ。

 アメリカをはじめ世界各国では、様々なレベルの学校(小中高大学)入学に際し、「マッチング・システム」というものを使っている。

 これは、生徒側に入学希望をする学校の順位表を提出させ、同時に各学校に受け入れを希望する生徒の順位表(大学などになると点数に依存するが、小学校の場合などは学校からの距離に依存させたりする)を提出させ、これらの順位表をもとに誰がどの学校に行くかを決めるというものだ。

 このマッチング・システムをうまく作らないと、例えば「私は本当は学校Aが第1志望だが、学校Aは人気なのでこれを第1志望として順位表を提出するのはリスキーだ。だから学校Bを第1志望ということにしておこう」などと考える生徒が現れたりする。こうなると、生徒たちの本当の希望を反映した順位表が集まらないので、マッチング・システムの方は、本当の希望を叶えることが不可能になってしまうのだ。