『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』が、いまがん関係者の間で大きな話題になっている。「医療データに精通した疫学研究者、日々患者を診る腫瘍内科医、がん新薬の開発者の組み合わせは、さながらがん情報のドリームチームの感がある」(2020/4/11 毎日新聞朝刊)、「がんの専門医の間ですこぶる評判が良かった」(2020/5/11 下野新聞)とメディアも絶賛。がんになる前から読んでおきたい本として注目を集めている。
よく見かける「こうしたらがんが消えた!」といった派手な本とは違い、「正しさ」にこだわった、ある意味地味なこの本が刊行された背景には、「トンデモ医療が氾濫する日本の中に、正しい情報を広めたい」という著者らの強い思いがあった。今回は、がんになる原因について、著者の1人である勝俣範之 日本医科大学教授に話を聞いた。(取材・構成/樺山美夏)
生活習慣が原因でなるがんは
全体の3割程度
――本で紹介されている、「がんになるリスクを下げる5つの食品」のうち、たまたま私は、玄米、野菜、ナッツ類、オリーブオイルの4つを毎日食べておりまして。がんになるときはなる、とは言っても、良い生活習慣はやはり続けたほうがいいですか?
勝俣 食生活をはじめとした生活習慣などの「外的要因」によって、がんになるケースは全体の30%程度です(注1)。親から受け継いだ「遺伝的要因」は5~10%ぐらい。あとの60~70%は、遺伝子異常が突然起こってしまう「偶発的要因」なんですよ(図表1)。
注1より筆者ら作成
勝俣 生活習慣のほとんどを占めるのは何か知っていますか?
――タバコですか?
勝俣 そうです。がんになる生活習慣の原因は、タバコがほとんどです。喫煙によって発がん性物質が体内に入ると、肺がん、食道がん、口腔がん、咽頭がん、胃がん、肝がん、膀胱がんなど、さまざまな部位の正常細胞に遺伝子異常を引き起こします(注2)。
https://www.cdc.gov/tobacco/campaign/tips/diseases/cancer.html
――私は、タバコは吸いませんがお酒は飲みます。先生の本で、世界的な研究により「もっとも健康によい飲酒量はゼロである」と結論づけられた(注3)と知って、長生きはしないだろうなとガッカリしました。
勝俣 そのパートは、津川友介先生が担当したんですが、がんになるリスクをゼロにしたいなら、お酒はゼロがいいですよ。でも、それでは人生がつまらなくなってしまう方もいるでしょうから、そういう方は節度ある量をたしなめばいいと思います。私も、週に1、2回くらいは飲んでますけどね。お酒はコミュニケーションの潤滑油でもありますから(笑)。
――そうですよね。ちょっとホッとしました(笑)。
勝俣 ストレスががんを引き起こすというのも、明確な科学的根拠が存在しないことが明らかになっています(注4)。それに、本人がどんなに予防しているつもりで食生活やストレスに気を使っても、2人に1人はがんになるわけですからね。これはもう、どうしようもないことなんです。だから、がんにならないことだけ考えるのではなく、がんになった後どうするかを考えることが、よっぽど現実的だと思うんですね。
https://www.cancer.gov/about-cancer/coping/feelings/stress-fact-sheet
――がんになったあとの話で言うと、私の知り合いに、がんの治療がすんだあと何年も再発していない人がいます。どの人も生活習慣を改善したり、ストレスの少ない健康的な生活を送っているのですが、それも再発しないこととはまったく関係ないんでしょうか。
勝俣 健康的な生活を送ることは、他の病気に対する予防にもなるので、大切なことだと思います。一部には、再発を減らすのではないかという報告もありますが、生活習慣やストレスの少ない生活が直接がんの再発を予防する明確なエビデンスに乏しい状況です。患者さんは、がんになったからと、生活習慣改善に一生懸命になる方は多いのですが、それでも再発する人は多いですよ。
日本の抗がん剤治療のパイオニア
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授、外来学療法室室長
富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業後、国立がんセンター中央病院内科レジデント、同薬物療法部薬物療法室室長などを経て現職。『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』(ダイヤモンド社)『逸脱症例から学ぶがん薬物療法』(じほう)、『「抗がん剤は効かない」の罪』(毎日新聞社)など著書多数。