「抗がん剤は副作用がきつい」のウソ・ホント

――5年間、再発しなければ大丈夫なのでしょうか?

勝俣 最近では、がんの生存率は10年まで出すことが多くなっています。治療成績がよくなったこともありますが、5年経って再発する人も結構います。

――ところで、がんになった後のことで言うともうひとつ、最近のがんの標準治療は、副作用がだいぶ軽減されていることを先生の本を読んで知って、少し安心しました。

勝俣 そうですよ。では、問題です。抗がん剤治療をしている間は入院が必要だから仕事ができなくなる、は○か✕か?

――✕です。抗がん剤治療は通院で受けられると、本に書いてありました。

勝俣 正解です。近年、抗がん剤治療の副作用管理はとても進歩しているので、一部の血液がんなどを除くがんの9割は、通院で抗がん剤治療を受けられます。では、抗がん剤治療の専門家は誰か知ってますか?

――それは、勝俣先生のような腫瘍内科医の先生ですよね。

勝俣 そうです。ただ、日本には腫瘍内科の専門医が非常に少ないので、ほとんどの病院では外科医が抗がん剤治療を担当しています。そのため、9割通院可能な抗がん剤治療でも、入院で行われることがいまだに多い現状があります。

 抗がん剤治療に副作用はつきものです。でもこの20年くらいで、副作用を抑える薬や処置がたくさん出てきているのも事実です。25年以上前は、抗がん剤の負担が大きすぎて寝たきりになる人もいたので、「がんになると仕事ができなくなる」というイメージを持たれていました。今もそう思い込んで、仕事を辞めてしまう人がいるのですが、仕事はできるんですよ。ただ、そのための適切な治療や副作用管理ができていないケースが多いのです。

――がんの治療法は、日々進化し続けているので、自分ががんになったとき、どこまで効果を期待できる治療を受けられるかは、タイミング次第で運任せの部分も大きいなと思いました。

勝俣 より効果的な治療法は、これからも徐々に出てきますよ。ただ、がんはまだまだ難しい病気なので、世界的に続けられている研究が急展開して、特効薬が突然出てくるようなことはないだろうと思っています。それでも20~30年前に比べたら、標準治療はかなり進歩していますよ。

ノーベル賞級の治療薬でも
万人に効くわけではない

――2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑先生が開発したオプジーボは、がん治療の歴史を変えた薬と言われています。でもこの新薬も、誰にでも効くわけではないんですね。本を読んで知りました。

勝俣 オプジーボに生存率を高めるというデータが出ているのは事実です(注5)。しかし、すべてのがんに効くわけではありません。また、同じがんでも、ステージなど進行度に応じて、適応が異なります。また効果があるのは、全体でも1~4割の患者さんになります。人の体はそれぞれ異なる複雑な個体で、がんの種類も経過も人それぞれ違いますからね。治療の効果に大きなバラつきがあるのは、当然と言えば当然のことなんです。

注5 Brahmer J, Reckamp KL, Baas P, Crinó L, Eberhardt WE, Poddubskaya E, Antonia S, Pluzanski A, Vokes EE, Holgado E, Waterhouse D, Ready N, Gainor J, Aren Frontera O, Havel L, Steins M, Garassino MC, Aerts JG, Domine M, Paz-Ares L, Reck M, Baudelet C, Harbison CT, Lestini B, Spigel DR (2015) “Nivolumab versus Docetaxel in Advanced Squamous-Cell Non-Small-Cell Lung Cancer,” N Engl J Med; 373(2): 123-35.

 ですから、個別の治療例やデータが、そのまま自分にも当てはまると思い込まないことです。治療の種類や正しい情報は、がん専門医くらいしか知らなくて、専門でないと、医者でさえも間違った情報にだまされてしまう人がいますから。

――お医者さんもだまされるとはびっくりです。では、がん治療の専門医は、どのような基準で探せばいいのでしょうか?

勝俣 国や地域が指定している、「がん診療連携拠点病院」かどうか必ず確認することです。すべて厚生労働省のホームページに載っています(注6)。がんの治療に関しては、医者を信じるというよりも、その病院が保険適用の標準治療を提供しているかどうかを確認してください。そのうえで選んだ病院で不安や疑問がある場合は、セカンドオピニオンを受けたほうがいいです。

――セカンドオピニオンは、気兼ねなく受けられるものなのですか?

勝俣 普通のことですよ。「別の病院にも意見を聞きたいです」と主治医に話して、紹介状を書いてもらえばいいだけですから。それで、セカンドオピニオンの意見も一致すれば、元の病院で治療を受ければいいですし、意見が違えばどちらがいいか考えればいい。はっきり言えるのは、セカンドオピニオンに反対するような医者にはかからないほうがいいということです。

――治療方針や診断内容を聞くと、家族の意見なども出てくると思います。当事者であるがん患者さんが、どういう判断基準で病院や治療を選べばいいのか、迷うこともありそうですね。

勝俣 主治医とセカンドオピニオンに相談して、それでも迷うことがあれば、がん専門の看護師や薬剤師、全国にある「がん相談支援センター」の窓口に相談するのもいいと思います。身近な人よりも、専門的な知識がある第三者のほうが、冷静に話を聞けると思いますし、相談もしやすいでしょう。

 がんの患者さんは、家族や他人のために治療するわけではないですからね。「あれが効く」、「この治療がいい」と一般の人からすすめられても、自分の命にかかわることですから、正しい情報かどうかちゃんと見極めて、自分が一番納得できる治療を受けてほしいですね。

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