インキで世界首位のDICは過去の大型買収で財務が悪化している中、会計基準の変更で株価下落を引き起こした。財務と市場評価を改善するには構造改革を急ぎ、本業で稼ぐ力をつけるしかない。

 早ければ2015年3月期から強制適用が予定されていたIFRS(国際会計基準)。インキで世界シェアトップのDIC(08年に大日本インキから社名変更)はこのIFRSとの共通化を進める一連の日本の会計基準変更に“振り回される”格好となった。

 国内企業は急ピッチでIFRS対応の準備を進めてきたが、米国の強制適用時期先送りに端を発し、日本でも一気にトーンダウン。金融庁は導入方針の見直しに関する議論を進めている。

 さかのぼって08年4月、IFRSとの共通化の一環で、海外子会社との会計基準統一が実施された。それまでは海外子会社について現地の会計基準による処理が認められていたが、日本の親会社が使っている基準の採用が求められるようになった。

 統一の影響が大きいのは、過去に海外子会社を通じてM&Aをした際に発生したのれん代の処理だ。のれん代とは、企業買収時に発生する買収価格と相手側の時価純資産との差額のこと。

 DICは基準統一に当たり、638億円もののれん代を一気に償却せざるを得なくなった。しかも09年3月期は円高による評価の減少も709億円発生したのでダブルパンチ。08年3月期に2555億円あった純資産は1089億円に大きく減った(図1)。

 この決算を受け、株価は一気に下落した。のれん代の償却は現金支出を伴わないが、「バランスシート上の純資産が小さくなったことで、株式市場から満足いく評価を得られていない」と同社は会計基準変更が市場評価を下げたと分析する。

 しかし、根本的な要因は別にあるだろう。まず自己資本を見ると08年以前から20%前後という低水準が続いている。これは過去の巨額投資の後遺症ともいえる。