近年、経済の「サービス化」が注目されているが、依然として日本の基幹産業を担っているのは製造業であるといえるだろう。

 製造業の中で生産部門は、多種多様な資源を投入して高品質な製品を継続的に生産するとともに、当該製品の製造原価を明らかにし、当該製造原価を下げる活動を行っている。また、この活動を行うための投資起案の責務も担っているといえるだろう。

 制度会計の変更は、生産部門が担う原価計算(制度&管理)業務に影響を与えることになる。企業によっては制度会計の原価計算と管理のための原価計算を分けて運用しているケースも見られるが、制度会計と管理会計は、活用する基礎情報の多くを共有しており、制度会計の変更は制度面のみならず管理面の原価計算にも影響を及ぼす。

 したがって、IFRSの採用は、生産部門の「原価計算業務」および「管理業務」にも相当の影響が予想されるのではないだろうか。

製品原価に大きな影響を与える
IFRSと日本会計基準との主な差異

 まず、IFRSの採用により、重要な原価要素の会計処理方法が変更され、金額自体も大きく変動することが想定される。典型的な項目として挙げられるのが、減価償却費(有形・無形固定資産)、労務費(退職給付会計、有給休暇引当)だ。これら以外でも、為替換算処理の変更等により、原材料費や海外生産子会社の原価計算の数値が影響を受ける場合がある。

A)減価償却費

1)有形固定資産

 従来は多くの企業で、有形固定資産の会計処理方法(償却単位、耐用年数、償却方法)として、税法上の処理基準を財務会計のみならず管理会計上も活用してきたケースが多いだろう。しかしIFRSでは、それぞれの固定資産の経済的な便益が将来提供される単位、期間、パターンにしたがって、会計処理が決定される必要がある。つまり、企業の当該資産の活用実態や計画が、従来活用してきた(税務上の)会計処理方法と一致することを証明できなければ、新たにその活用実態や計画に応じて会計処理の方法を変更しなければならない。