自見金融相は6月21日、2014年度からのIFRS強制適用を見送ると正式に発表した
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 「2014年度からの強制適用はしません」

 日本ではもはや“既定路線”と見られていたIFRS(国際会計基準)の強制適用が見送られ、大きな波紋を呼んでいる。6月初旬、来日していたIFRSの総本山、IASB(国際会計基準審議会)のデービッド・トゥイーディー議長に対し、自見庄三郎金融相がそう断言したというのだ。

 あわてたのは金融庁の幹部たち。それもそのはずで、すでに09年6月に公表した企業会計審議会中間報告において強制適用の可能性を盛り込んでいたし、実際には今年度中に判断、3年間の準備期間を経た14年度から強制適用するつもりで動いてきたからだ。

 形勢が逆転した最大の要因は、米国のスタンスが一転したことだ。08年には、米国も14年からIFRSを段階適用していくことを打ち出していたが、今年2月には適用開始時期を1年延長、5月には米国会計基準も残す案を示し、「明らかにIFRS適用から後退した」(大手監査法人幹部)からだ。

 これを足がかりに勢いづいたのが、強制適用に反対する製造業を中心とした産業界。反対派の急先鋒と見なされている佐藤行弘・三菱電機常任顧問がまとめ、金融相や経済産業相らに提出した要望書には、新日本製鐵やトヨタ自動車、キヤノンといった大手製造業の名がズラリと並ぶ。

 さらには日本経済団体連合会企業会計部会長でIFRS推進派の島崎憲明・住友商事顧問がそのポストからはずれたことも「反対派に追い風となった」(関係者)。

 加えて、「国民新党の自見さんは、時価会計のIFRSを小泉・竹中路線の一環だと思っているフシがある」(政府筋)。こうした政治的な思惑も重なり、震災の影響を口実に突如、“反IFRS”に舵を切ったというわけだ。

 確かに産業界からは、かねて金融庁の強引なやり方に対する不満の声が上がってはいた。IASBの理事ポストを1席得ていた金融庁は、「なんとしてもポストを死守するために強制適用を実現したかった」(金融庁関係者)。

 前出の佐藤氏も、「米国でもどの項目を近づけるか見直しが進むなか、日本ではまだ議論が十分なされたとはいえず、14年度からの強制適用など間に合うはずがない」と強調する。

 金融庁は月内にも企業会計審議会を開催、IFRSを強制適用する場合でも5~7年の移行期間を設ける方針。だが見誤ってはならないのは、IFRSをめぐる欧米の駆け引きだ。仮に米国がIFRS適用を見送っても、米国基準がIFRSと同様“世界基準”に位置づけられるのは間違いない。

 だが、日本は違う。市場は日本基準のまま開示する企業を“二軍”と見なす可能性が高く、引き続き欧米の動きを注視することが求められる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)

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