マネーストックは
バブル期以来の高い伸び
日本銀行による異次元・金融緩和でマネタリーベースは急拡大したが、マネーストックの伸びは緩やかな増加にとどまってきた。結果として、信用乗数(=マネーストック÷マネタリーベース)は急低下が続いていたが、新型コロナ対応のために日銀が打ち出した政策によって、マネーストックは1980年代終わりのバブル期以来とも言える高い伸びを示している。
異次元・金融緩和によるマネタリーベースの増加は、もっぱら日銀の長期国債購入による日銀当座預金の増加であり、それ自体はマネーストックを拡大させるものではない。つまり金融緩和効果はなかった。
これに対し、新型コロナウイルス感染症の広がりに対する日銀の対応は、新型コロナ関連の無利子融資のための資金を金融機関に対して金利ゼロ%で供給するものだ。これが、マネタリーベースだけでなく、マネーストックも拡大させ、金融緩和効果を強力に発揮している。
発想の転換で
ゼロ金利制約を克服
2000年代の日銀の金融政策は、名目金利はゼロ%より下に下げられない、というゼロ金利制約に直面していた。政策金利はほぼ一貫してゼロ近傍で推移し、2016年1月にはマイナス金利政策を導入した。
マイナス金利政策と言っても、日銀当座預金の一部にマイナス金利を適用し、それに伴いコール市場でマイナス金利の裁定取引を発生させるという苦しい策であり、金融機関の収益にマイナスに作用するという副作用こそあれ、金融緩和効果を期待できるものではなかった。
一方、日銀の新型コロナ対応のオペレーションによる資金供給は、急速に拡大している。これまでも日銀当座預金への+0.1%の付利は行われていたが、それは日銀による国債買入れに応じさえすれば得られるものであった。
しかし今回の付利は、新型コロナウイルスの感染の広がりで発生した資金需要に対して、貸出しで対応した金融機関だけが得られるメリットだ。だから金融緩和効果があり、マネーストックも増加する。
日銀当座預金に付利することで、日銀から金融機関への貸出金利を実質的にマイナスにしてしまう。日銀は発想の転換でゼロ金利制約を克服した。