イギリスからの翻訳書『Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめたワークハック大全』は、コロナ禍で働き方が見直される中で、有益なアドバイスが満載な1冊だ。著者のブルース・デイズリー氏は、Google、YouTube、Twitterなどで要職を歴任し、「メディアの中で最も才能のある人物の1人」とも称されている。本書は、ダニエル・ピンク、ジャック・ドーシーなど著名人からの絶賛もあって注目を集め、現在18ヵ国での刊行がすでに決定している世界的なベストセラー。イギリスでは、「マネジメント・ブック・オブ・ザ・イヤー 2020」の最終候補作にノミネートされるなど、内容面での評価も非常に高い。本連載では、そんな大注目の1冊のエッセンスをお伝えしていく。(本記事は2020年10月3日の記事を再構成したものです)
ジェフ・ベゾス流「プレゼン上手」に騙されない方法
「我々は、2枚のピザでお腹がいっぱいになるくらいの人数でチームをつくることにしている。これを、“ピザ2枚ルール”と呼んでいる」とアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは言う。
僕は、このベゾスの言葉に耳を傾ける人がいるのが不思議だ。ベゾスはピザ2枚でもっと大勢の人の空腹感を満たせると思っているつもりなのかもしれないが、僕からすればピザを2枚食べる人間の数は2人だ。
ご存じの通り、効果的なチームの人数は8人から9人までだと言われている。つまりベゾスは、「ピザ8枚ルール」と呼ぶべきだった。ピザ2枚で足りるわけがない。
冗談はさておき、ベゾスが主張していることで注目に値すべきだと思われることは他にもある。
アマゾンの会議は、参加者が資料を黙々と読むことから始まる。議論をするのはその後だ。
「アマゾンではパワーポイントを使ったプレゼンテーションはしません」とベゾスは株主に向けたレターで宣言している。
「その代わりに、6ページの文書を使います。この文書は、箇条書きだけで構成されたプレゼン資料とは違い、文や動詞、名詞がある文章で構成されています」
ベゾスによると、この文書の作成には数日から数週間かかる。「1日や2日では作成できない」とベゾスは言う。
また、この資料が会議の前に配布されることもない。もしそうすれば、参加者はざっと流し読みをするだけで、会議ではちゃんと読んだというふりをする(あるいは、読んでいないことがバレるのが恥ずかしくて、発言しなくなる)だろうからだ。
「会議はこの文書を黙って読むところから始まる。自習室みたいな雰囲気の中で、全員がテーブルを囲み、静かに文書に目を通す。通常は30分くらいだが、それ以上のときも以下のときもある。その後、議論を始める」
ある意味、これは恐ろしいことだ。突然、学生時代に戻り、試験会場で隣にいる成績優秀な子どもがすべてを読み終え、手を挙げて次の資料を要求しているのに、自分はまだ最初のページを読んでいるといった感覚に陥るかもしれない。
とはいえ、恥ずかしいという理由だけでこのアイデアを却下するのはもったいない。この黙読のアプローチにはさまざまなメリットがあることがわかっているからだ。
会議での大々的なプレゼンテーションには、虚勢を張る、大声で話す、大げさに振る舞う、太字の文字をやたらと使う、といった特徴がある。
アジェンダに従って行う会議も、得てして最もそのテーマについてよく知っている人ではなく、最も自信を持って話す人にとって有利に働くものだ。
これに対し、文章ベースのドキュメントはただ事実を記載したものにすぎないかもしれないが、じっくりと読むことで、その後の活発な議論につながる。
アマゾンの目覚ましい業績を見れば、過去15年間に下されてきた賢明な経営判断の多くが、このようなアプローチに象徴される思慮深い企業文化の影響を受けてきたであろうことは想像に難くない。