発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター。こちらは2021年1月26日の記事の再掲載です)。
「めちゃくちゃ仕事がはかどるぞ!」は危険信号
ASD(自閉スペクトラム症)傾向があり、在宅ワークで仕事の生産性が「上がった」方、それなりに多いと思います。仕事が好きで、しかもオフィス環境というストレッサーから解放された。あなたの集中力は過去最高に高まっている。それはもちろん素晴らしいことです。
しかし、仕事のスイッチが常にオフになっている人と常にオンになっている人、どちらが危ないかといえばいうまでもなく後者です。
実際、発達障害傾向のある方は「仕事に全く集中できない」症状の一方で、「過集中」に陥ることが珍しくありません。僕もこの状態に入ってしまうと30時間以上不眠不休で動き続けてしまうことがよくあります。本当はどこかで断ち切るべきだとわかっていても、ひとたび勢いに乗ると「よっしゃ、やるぞ!」が止まらなくなってしまい、先日脱水症状と過労で倒れて病院に運ばれました。病院でひと眠りしてガブガブ水を飲んだらあっという間に元気になったという、本当に恥ずかしい出来事でした……。なお、友人にも「仕事に集中していたら栄養失調で倒れた」人間が2人います。
「手の届くところ」に食べ物を置く
過集中で身体を壊す。この対策として有効なのが食べ物、飲み物を「手の届くところ」に置くことです。
脱水症状で懲りた僕は、自宅の机のすぐ横に小型の冷蔵庫を置いています。このペットボトルを6本も入れれば満タンの小さな冷蔵庫は、僕にとって本当に欠かせないアイテムです。中には主に水、オレンジジュース、ゼリー飲料を入れて、定期的に補充しています。
2つめの冷蔵庫を買うなんて、家がものすごく広いのかとよく誤解されるのですが、僕の自宅は2LDKのボロアパート。ワークデスクから冷蔵庫までは歩いて5秒です。「それなら冷蔵庫までくらい歩けばいいだろう」と感じられた方は少なくないでしょう。
しかし、発達障害の僕にとって「見えないものはないもの」。過集中で脳がヒートアップしているときでもすぐ目につき、手を伸ばせば届く場所に栄養補給源が存在していることが重要なのです。冷蔵庫を見て初めて「あ、喉渇いてる」と気づくのが僕らです。
ちなみに過集中にはいい過集中と悪い過集中があり、「やたら集中しているけれど仕事の成果には何ひとつつながらない」悲惨な場合もあります。僕も最近、〆切があと1時間でやってくるのにWikipediaの「ギャル」の項目を読み込んでしまい「こんなの読んでる場合じゃないしもう読みたくない、助けてくれ!」と泣き叫んでいたことがありました(内容は素晴らしいので、みなさんも暇なときに読みましょう。ギャルの壮大な文化史を知ることができます)。こうした、頭でわかっているのにどうしても止められない衝動をバッサリ断ち切るときにも、「小型冷蔵庫を開けて飲み物を選ぶ」行為は有効です。
・「生産性上がりまくり!」は過集中の恐れあり
・手の届く場所に、食べ物・飲み物を置いておこう
この2点を、覚えておいてください。