7月1日に国際標準化機構(ISO)が発行した建材中にアスベストが含まれているかどうかを調べる定性分析の国際規格(ISO22262-1)では、日本が提案してきた日本工業規格(JIS)による分析方式は採用されなかった。ところが、行政や一部の専門家はJIS法の正当性を主張し、一方でISO法の精度に疑義があると反発する。本連載第2回、第3回に続き、アスベスト建材の分析法をめぐる奇妙な議論の実態について、残された疑問を明らかにする。
日本側による虚偽説明の理由
「日本のJIS法は最高の分析方法だ」
日本側ISO委員である東洋大学客員教授の神山宣彦氏はJIS法を売り込んだ際、こう熱弁をふるったという。
しかし本連載第2回で指摘したように、日本側が提出した分析結果は間違いだらけの代物だった。にもかかわらず、経済産業省や厚生労働省は「JIS法の精度に問題があるとは認識していない」と言い、神山氏も「そんなに間違っていない」と反論する。
しかもJIS法が排除されたISO法を国際規格として採用することに賛成票を投じておきながら、「ISO法では建材中のアスベストの0.1%までの定性分析ができるとは確認されていない」と主張する。おかしな話である。
おまけに第2回に指摘したように、ISO法の発行後になって、その実用性を否定する発言を各処で日本側の関係者がするようになった。上記の3者のほかにも、たとえば7月に東京や大阪で開催された「日本作業環境測定協会(日測協)」による講習会で、ISO会議の委員である早稲田大学創造理工学部教授の山﨑淳司氏は「ISO(の分析法)は検出範囲が1%以上だから、0.1%は検出できない」などと説明している。山﨑氏が作成した当日の資料にもISO法は「検出範囲」が「1%以上」とある。
だが実際にはISO法にそんなことは書かれていない。検出範囲の説明では「0.1%未満から100%」まで検出できるとなっている。さらに一定の前処理などができれば0.01%未満でも検出可能と記されている。
山﨑氏に確認したところ、ISO法に書かれていない内容であることを認め、「意図的にアスベストを混ぜた場合は1%以上あるとしているし、実際見つかるのは1%くらいまでだろう」との独自の見解だと明かした。ちなみにISO法では製品中に意図的にアスベストを混ぜた場合「0.1%以上」となっており、この部分についても間違いだ。第3回の冒頭で示した神山氏による「ISO法では1%未満の微量に含まれたアスベストが判定できない」との発言にしても同様に根拠があやふやである。
ISO技術委員会の委員として活動してきたはずの彼らがISO法を理解していないはずがない。となると意図的に虚偽の説明をしたり、ISO法は信用ならないと発言したりしていることになる。
これとあわせて説明されるのが、JIS法のほうがISO法より信頼性が高いとの内容だ。たとえば、「JIS法はきちんと検証して精度が確認されているが、ISO法はされていない」との神山氏の主張である。
これらを検証するために、まずはJIS法落選とそれにからむ日本側の主張について、ISO委員からの反論も交えながら見ていこう。