昨年3月の東日本大震災にともなって発生した福島第一原発事故。その事故原因や対応について6月20日、東京電力の社内調査委員会による最終報告書が公表され、「内容が甘い」「自己弁護ばかり」と批判を浴びている。そのおよそ1週間前、あまり注目を集めなかったが、これまで顧みられてこなかった側面から、福島第一原発事故を分析した報告書が発表された。
(ジャーナリスト 井部正之)

ギョルギー・ダロス/グリーンピース・インターナショナル エネルギー投資シニアアドバイザー。エコノミストでコンピュータープログラマーでもある。ハンガリーのIBMやシティバンクで勤務後、コンサルティング会社「ボストン・コンサルティング・グループ」で国際エネルギー事業(電機、天然ガス、石油)の業務を担当。その後、国連食糧計画(WFP)のシニアエコノミストとして3年間勤務し、2011年より現職。ハンガリー出身。

「今回の事故で何十万の人びとが家を失い、生活の糧を奪われました。同じように何十万という人びとが蓄えを失うということが起きています。その損失というのは非常に巨額なものでして、事故によって東京電力の株価は大暴落し、株式全体の価値に換算すると3兆円に達します。またほかの電力会社の株価も暴落しており、すべて合わせると6兆円に上る損失になります」

 報告書「原発─21世紀の不良債権」の著者の1人である、環境NGO「グリーンピース・インターナショナル」エネルギー投資シニアアドバイザーのギョルギー・ダロス氏は、13日に都内で開催された経済セミナー「原発の投資リスクと自然エネルギー市場の可能性」でこう切り出した。この金融リスクの側面から福島第一原発事故について分析した珍しい報告について、報告書と同セミナーの内容、そしてダロス氏へのインタビューにより、その深層に迫りたい。

東電事故で投資家100万人に損害

 ダロス氏らの調査によれば、東電株を保有していた投資家は43.9%が個人投資家で、小口の個人投資家の持ち株は平均すると1000~1200株。株価は90%以上も値下がりしたため、彼らは株価の下落でおよそ200万円を失った。そのほかでは30.1%が金融機関、17%が外国投資家、4.9%が国内企業、2.7%が行政機関など、1.4%が証券会社だという。