ある友人は、夏の夕方、帰宅途中に突然大雨が降り出したときのことを話してくれた。傘を忘れた見ず知らずの人たちと、いつ止むだろうと話しながら軒下で雨宿りをしていた。
ニューヨークの名門芸術大学プラット・インスティテュートでインダストリアル・デザインの修士号を取得。世界的イノベーションファームIDEOのニューヨークオフィスのデザインディレクターを務め、現在はフェロー。8年を投じた研究により「喜び」を生む法則を明らかにした『Joyful 感性を磨く本』は世界20ヵ国で刊行が決まるベストセラーとなった。
Photo:Olivia Rae James
嵐は数分で過ぎ去り、みんなで歩道を歩き始めると、一人が「見て!」と叫んだ。エンパイアステートビルの真上の空に、美しい虹が架かっていたのだ。みんな足を止め、雨に濡れた服が体にまとわりつくのも気にせず、満面に笑みを浮かべて虹を見上げた。
この物語のありとあらゆるバリエーションを聞いた。人々は凍えるような日や蒸し暑い日に、友人や見知らぬ人たちと一緒に、コンサートや山頂やヨットで、虹を見ていた。虹はどんなところにも喜びを運ぶように思われる。
私はこういった、多くの人からくり返し聞くものをリストアップし始めた。ビーチボールや花火、プール、ツリーハウス、気球、それにアイスクリームサンデーのカラフルなトッピング。
これらの喜びは、年齢や性別、民族の垣根を越えているように思えた。そこでそういったものの写真を集めて、スタジオの壁に貼っていった。毎日少しずつ時間をかけて写真を追加し、種類ごとに並べ替えてはパターンを探そうとした。
ものの「見た目」が感情に大きな影響を与える
ある日写真を見ながらひらめいた。
棒付きキャンディとポンポン、水玉は、どれも丸い。
色鮮やかなキルトとマティスの絵画、虹色のキャンディは、どれも純色に満ちている。
大聖堂のバラ窓には、最初首をひねったが、雪の結晶とヒマワリの隣に並べるとわかった。どれも放射状に対称なかたちをしている。
シャボン玉と風船、ハチドリにも共通点があった。どれもふわふわと宙に浮かぶものだ。
こうしてすべてのものを並べて一覧することによって、喜びの感情は謎めいていてとらえどころがないが、その感情は実体的な物質的属性を通して呼び覚ますことができるのだと知った。
具体的にいえば、喜びの感情を引き起こすのは、デザイナーが「エステティクス(美学、美的特性)」と呼ぶ、物体の外観や質感を定義する特性である。