私はこのときまでずっと、美学を装飾的で、やや軽薄なものとさえみなしていた。私がデザインスクールで学ぼうと決めたのは、人々の生活をよりよくするものをつくりたかったからだ。

 人間工学的で機能的で環境に優しいプロダクトをつくる方法を探すことが、私の関心事だった。色や質感、造形、動きの扱い方の授業を楽しんではいたが、こうした要素を必要不可欠なものではなく、おまけのようなものとして扱っていた。

 これは私たちの文化に一般的な姿勢だ。誰もが美学には少なからず注意を払っているが、気を使いすぎたり、外見に力を入れすぎたりするのは見苦しいと考えられていて、へたをすると「浅い」とか「中身がない」などと思われかねない。

 だがスタジオの壁に貼った美学の集まりは、たんなる装飾をはるかに超えて、深い感情的反応を引き起こす何かを持っていた。

人が喜んでしまう「10のこと」

 私が特定した「喜びの美学」は10に上る。その一つひとつが、喜びの感情と、身のまわりのものの実体的な性質との結びつきを明らかにしている。

エネルギー:鮮やかな色と光
豊かさ:みずみずしさ、数の多さ、多様さ
自由:自然、野生、広々とした空間
調和:均衡、シンメトリー、流れ
遊び:円、球、泡のかたち
驚き:コントラスト、斬新
超越:上昇、軽やかさ
魔法:見えない力、幻想
祝い:同期性、きらめき、はじけるようなかたち
新生:開花、拡大、曲線

 これらの美学は、私たちの感情とどのように関係しているのだろう? またこれらの美学が喜びの感情を促すのはなぜだろう?

 こうした疑問に触発された私は、世界中のとくに喜びにあふれる場所をめぐった。これからの章で、ツリーハウスのB&B(民宿)や、色によってつくりかえられた都市、老化を防ぐ住宅、球だけでできた海辺の邸宅に旅しよう。

 日本の桜の開花のような自然の驚異や、アルバカーキの砂漠上空に一斉に飛び立つ数百機の気球のような人工の驚異を見ていこう。

 またそうした旅をしながら、なぜこれらの場所や経験に、喜びを解き放つとてつもない力があるのかを説明する、心理学や神経科学の分野の新しい研究の知見を紹介しよう。

(本稿は、イングリッド・フェテル・リー著『Joyful 感性を磨く本』からの抜粋です)