金融緩和の重要性に二通りあり

 この違いは、金融緩和というものに対する実体経済と株式市場の反応の違いから来ているようだ。

 筆者を含めて景気の予想屋は、そもそも金融緩和というものをあまり重視していない。そこで若かった頃の筆者は、金融政策に強い興味を示す人々が少なからずいることが不思議でならなかった。

 後日気づいたのは、「金融緩和は実体経済は動かさないが、株価は動かす」ということであった。実体経済の人々と金融市場の人々は、住んでいる世界が違うのである。それが正に現在の株価を説明するのにピッタリな言葉だろう。

 景気の予想屋が金融緩和に興味を示さないのは、それが設備投資などにつながらないからだ。不況期に工場の稼働率が下がっている時に金利が下がっても、「工場を増設しよう」と考える経営者は少ないだろう。まして、ゼロ金利下での金融緩和は、設備投資にほとんど影響しないはずである。

 一方で、株価は金融緩和で大きく動く場合が多い。それは、市場参加者が「金融が緩和されると株価が上がる」と思っているからである。金融緩和がなぜ株価を押し上げるのかという理由に関しては、二通りの理解があるようだ。

 一つは「市場に資金が出回るから、その一部が株式市場に向かい、株価を押し上げる」というものであるが、残念ながらこれは正しくない。

 ゼロ金利下の金融緩和では世の中に資金は出回らない。銀行がゼロ金利の国債を持っているのは借り手がいないからであって、そんな時に日銀が銀行から国債を買っても、銀行は売却代金をそのまま日銀に預けるだけだからである。

 もう一つは、「金融緩和が株価を押し上げるとほかの投資家たちが考えているようだから、金融緩和になると他の投資家が株を買うだろう。そうなれば株価は上がるだろう。自分も買った方が得だ」ということである。

 これは典型的な美人投票の世界であって、「ほかの投資家が上がると思っている」とすべての投資家が思っていれば、理由など関係なく上がるのである。

 今回の金融緩和に際して株価が上がれば、投資家たちの信念は補強されるので、次の金融緩和の際にはさらに確実に株価が上がり、その繰り返しで信念が揺るぎないものとなっていくのである。美人投票に関しては、拙稿『日銀が体現してみせた「株価は美人投票である」ということ』を併せてご参照いただければ幸いである。