メタクリル酸メチル(MMA)モノマーは、液晶パネルや自動車用ランプなどに使われるアクリル樹脂の原料で、有望と目されている。
その生産能力で業界4位の三菱レイヨンが、業界トップの英ルーサイト・インターナショナルを16億ドル(約1600億円)で買収することになった。ルーサイトの筆頭株主である英投資ファンド、チャーターハウスが売却先を探していたところに、三菱レイヨンが円高の追い風を受けて食らいついた格好だ。
買収資金は大半を借り入れで賄うことになるが、首脳陣は喜びを隠せない。「当社のMMA生産シェアは35%となった。原料から樹脂まで一貫生産するMMAチェーン戦略に弾みがつく」(鎌原正直社長)。2015年近傍の目標、売上高1兆円(現在は4185億円)に向けた布石と位置づける。
じつはルーサイトは23%というトップシェアに加え、独自製法の強みを持ち、引く手あまたの存在だった。
通常、MMAモノマーはアセトンの副産物を使ったアセトンシアンヒドリン法で作られる。それに対して、三菱レイヨンはプロピレンの副産物を使った直酸法でコストダウンを図ってきた。
これよりはるかにコスト競争力があるといわれるのがルーサイトのアルファ製法だ。プロピレンより安いエチレンの副産物を使っているためで、シンガポールに大型工場を立ち上げ中だ。
三菱レイヨンは、05年にルーサイトと原料の相互供給関係を結び、先手は打ってきた。それでもルーサイトの製法は、エチレンを低コストで生産する中東勢にとっては垂涎の的だった。中東に大型工場を建設中の住友化学もまた興味を持っていたといわれる。
気炎を上げる三菱レイヨンだが、「ルーサイトを他社に取られずにほっとしている」(鎌原社長)というのが正直なところだろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子 )