新型コロナウィルスの影響で外出時間が減った今年、なんとなく日々重たいような気分を感じているという人も多いのではないだろうか。そんな中、世界最高の創造集団IDEOのフェローによるきわめて画期的な本が上陸した。『Joyful 感性を磨く本』(イングリッド・フェテル・リー著、櫻井祐子訳)だ。
著者によると、人の内面や感情は目に映る物質の色や光、形によって大きく左右されるという。つまり、人生の幸不幸はふだん目にするモノによって大きく変えることができるのだ。
本国アメリカでは、アリアナ・ハフィントン(ハフポスト創設者)が「全く新しいアイデアを、完全に斬新な方法で取り上げた」、スーザン・ケイン(全米200万部ベストセラー『QUIET』著書)が「この本には『何もかも』を変えてしまう力がある」と評した他、アダム・グラント(『GIVE & TAKE』著者)、デイヴィッド・ケリー(IDEO創設者)など、発売早々メディアで絶賛が続き、世界20か国以上で刊行が決まるベストセラーとなっている。その驚きの内容とはどのようなものか。本書より、特別に一部を紹介したい。
「寿命を延ばす家」とは何か?
あるとき友人が新聞に載った地元の家の写真を送ってくれた。子どもが描いた家のように見えるが、実在する建造物だ。家のすべての面が色画用紙のような明るい色で覆われていた。ピンクに紫、オレンジに青、それに少なくとも3階調の黄の、大きな長方形。緑のドアがあれば、赤のドアもあった。(中略)
これが「バイオスクリーブハウス」、寿命を延ばす家という不思議な副題のついた家である。クリエイターは荒川修作とマドリン・ギンズの建築家と詩人のカップルだと知った。彼らはこの家が、ただ住むのが楽しいだけでなく、住む人の寿命を延ばすのだと主張する。
バイオスクリーブハウスはちょうど所有者が代わろうとしていて、訪問することは叶わなかった。だが数か月後、荒川とギンズが東京近郊に集合住宅を設計していたことを知った。しかも見学するだけでなく、住戸の一つに宿泊できることになったのだ!
家は「クスリ」になる──住む場所が人を変える
荒川とギンズが建てた集合住宅のある東京近郊の三鷹に到着したとき、私は時差ボケで疲れ果てていたうえ、2本の電車とバスを乗り継ぎ、傘を持たずに雨の中を歩いたため、びしょ濡れだった。
でも角を曲がって目的地が目に入ったとたん、思わずほほえんでしまった。写真で見たとおりだ。明るい色の立方体や円筒の重なりに、大きさのまちまちな窓がつぎはぎのようについている。嫌な気分は道を渡る前に消えてしまった。(中略)
支配人の松田さんがお茶を淹れ、一見普通に見える賃貸契約書と施設の背景情報、地元飲食店の地図、その他の住宅のパンフレットの入ったフォルダーを渡してくれた。そして、私の宿泊する部屋のある上階に案内してくれる前に、謎めいた灰色のパケットを差し出し、「これが住戸の使用法です」と言った。
私がそれを不思議そうに見て説明を待っていると、「荒川とギンズは、建築は体に薬のような効果をおよぼすと考えていました」と松田さんは言った。「だから薬のように、使用法をつくったんです」
私はパケットを受け取り、おもしろい夜になりそうだと思った。