赤ちゃんは「音や模様」で神経接続を増やす

 天命反転住宅は極端な例かもしれないが、豊かな感覚的刺激にさらされることが、ただ楽しいだけでなく、神経の健全な発達に欠かせないことを示す明白な証拠がある。

 視覚的刺激を与えられずに育てられたサルとネコは、視覚情報を処理する脳の部位が正常に発達せず、成体になると永久的な視覚障害を生じる。

 マウスは選択肢があれば必ず、刺激のない環境よりも刺激の豊富な環境を選び、後者の環境で成育されたマウスは、通常のケージで育てられたマウスに比べ、学習・記憶能力のテストではるかに高い成績を挙げる

 人間を対象とする研究では、赤ちゃんは発達のさまざまな段階で音や模様に引きつけられ、そうした刺激にさらされることで脳に新しい神経接続ができることがわかっている。(中略)

脳は「刺激」によって発達する

 子宮内で得られる感覚的刺激は限られているから、知覚能力の大部分は出生後に発達させる必要がある。脳は何もないところでは発達することができず、とくにさまざまな触感や色、かたちにあふれた環境とのたえまない相互作用を必要とするのだ。(中略)

 脳が最も刺激を求める時期は脳が発達する子ども時代だが、人はいくつになっても感覚的刺激への渇望を失わない。このことはマッサージやテイスティングメニュー(訳注:少量の料理を多種類出すコース)、スカイダイビングなどの人気からも明らかだ。

 じつはこうした活動は無為な快楽というだけではないことが、研究からわかっている。脳は多様な感覚的刺激にさらされることで利益を得るのだ。

 脳は触覚、味覚、嗅覚の刺激を受けると、感情を司る部位が大いに活性化される。とくに触覚は、ストレス軽減や気分改善、集中力向上を促すことがわかっている。

 最近では感覚遮断タンクが、電子機器のない静かな空間へのひとときの逃避として人気を博しているが、人間は基本的なレベルの感覚的刺激なしでほとんどの時間を過ごすと、正常な認知機能を維持することができなくなる。たった15分間、感覚を遮断するだけで、幻覚や妄想、抑鬱感が生じるという研究報告もある。

 ある研究では、何の装飾もない部屋で15分間ひとりで過ごした被験者は、何もせず何も見ずにひとりで過ごす状態を避けるために、電気ショックを自分に与えることを選んだという。

 人間にとって感覚とは、世界を理解するための重要な手段なのだ。脳に情報が入ってこなければ、精神はゆっくりと異常をきたしていく。

(本稿は、イングリッド・フェテル・リー著『Joyful 感性を磨く本』からの抜粋です)