イングリッド・フェテル・リー(Ingrid Fetell Lee)
プリンストン大学で英語とクリエイティブ・ライティングの学士号、ニューヨークの名門芸術大学プラット・インスティテュートでインダストリアル・デザインの修士号を取得。「喜びの美学」サイト創設者。世界的イノベーションファームIDEOのニューヨークオフィスのデザインディレクターを務め、ターゲット、コンデナスト、アメリカン・エキスプレス、ペプシコなど世界の名だたる企業や米政府のデザイン、ブランド戦略に携わった。デザインと喜びのエキスパートとして、ニューヨークタイムズ紙、ワイアード誌、ファストカンパニー誌などで取り上げられてきた。現在はIDEOフェロー。8年を投じて書き上げた本書は、アダム・グラント、アリアナ・ハフィントン、スーザン・ケイン、デイヴィッド・ケリーらに絶賛を受けた他、ダニエル・ピンク、マルコム・グラッドウェルらによる「ネクスト・ビッグアイデア・クラブ・セレクション」に選出されるなど大きな話題となり、20ヵ国以上での刊行が決まっている。また本書の内容をテーマとしたTEDトークは、スタンディングオベーションの絶賛を受け、世界で1700万回以上視聴されている。

櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
翻訳家
京都大学経済学部経済学科卒、大手都市銀行在籍中にオックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書に『1兆ドルコーチ』『時間術大全』(ともにダイヤモンド社)、『選択の科学』(文藝春秋)、『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』(日本経済新聞出版)、『イノベーション・オブ・ライフ』(翔泳社)などがある。

「喜び」はいつでもつくれるーー訳者より

 本書の著者イングリッド・フェテル・リーの名を世に知らしめたのは、2018年のTEDトークである。

「喜びは、ものに備わった光や色、かたちなどの特性によって、自在に引き起こすことができる」という、本書の強力なアイデアを紹介したこのトークはセンセーションを呼び、現在まで世界累計1​7​0​0万回を超える視聴回数を記録している。

 リーは世界的デザインファームIDEOのデザインディレクターとして十数年の間、第一線で活躍したあと、大学院でデザインの研究をしていたが、ひょんなことから喜びに関心を持つようになり、現在は喜びとデザインに関する研究の第一人者として、IDEOのフェローを務めながら、各種メディアや自身のブログ「喜びの美学」を通して情報発信し、コンサルティングを行っている。

 そして世界全体が想像もしなかった災厄に見舞われ、閉塞感に満ち、しあわせを見つけにくいこの時代に、その発想が大きな支持を集めているのだ。

 そもそも喜びとは何だろう? 喜びはしあわせと混同されることが多い概念だが、二つを区別することが大切だと、リーは強調する。

「しあわせ」とは持続的によい状態でいることをいい、家庭や仕事、人間関係、人生の目的などの多くの側面がからんでいるため、簡単には手に入らず、努力してめざすべきものと考えられることが多い。

 これに対し「喜び」はもっとシンプルな、瞬間的で強烈な感情体験である。

 だがそうした単純な喜びにも、心身に大きな影響をおよぼす力があり、しかもそれは簡単に生み出せるというのが、本書の主旨である。

喜びには「生物学的な理由」がある

 リーはあるとき、喜びが内面的な体験だけでなく、かたちのあるものによっても引き起こされることに気がついた。たとえば虹や花火、ツリーハウス、気球……。興味をそそられ、友人や知人、地元ニューヨークの街中の人々にまで、「どんなものに喜びを感じますか」と聞いてまわった。

 それらの写真を集め、一覧してみると、大きな発見があった。

 第一に、喜びの感情は、ものに備わった色や形状、触感といった、ある種の「美的特性」によって引き起こすことができるということ。第二に、そうした特性のなかには、年齢や性別、文化や民族を超えて、多くの人の感性に訴え、普遍的に喜びを感じさせるものがあるということ。

 そのような喜びは、普遍的であるからには何らかの重要な意味を持つにちがいないと、リーは考えた。

 そこで、人が普遍的に喜びを感じる美的特性を10のパターンに分類した──エネルギー、豊かさ、自由、調和、遊び、驚き、超越、魔法、祝い、新生

 これらを「喜びの美学」と名づけ、なぜ強い喜びを生む力があるのか、私たちの感情とどのように関係しているのか、それを利用して積極的に喜びを生み出すにはどうすればよいのかを掘り下げていったのが、この本である。

 最新の学術研究に裏づけられた納得できる議論と、世界中の喜びの源に実際に足を運び、喜びを生み出している人たちに直接話を聞いて得た体験から、リーは喜びというのは、生存と繁栄に必要なものに私たちの注意を向けるために進化の過程で備わった、自然な心の働きであると示している。

 私たち人間には、周囲の世界との感覚的な経験に喜びを見つけたいという、強力な衝動が備わっているのだ。それを活用しない手はない。

 はかないしあわせを追い求める代わりに、喜びの美学という「レバー」を引くことで、いつでも心のなかにある喜びの泉にアクセスすることができるのだ。

 喜びは、自然によって人間に「報酬」として与えられた感情である。喜びを感じるとき、私たちは気分がよくなり、不安やストレスが和らぎ、生産性や記憶力が高まり、人との絆が深まることが、多くの研究によって示されている。

 喜びはただその場の幸福感を高めるだけでなく、心身の健康を保つうえで欠かせないものである。

 しあわせを見つけにくい時期にも、喜びの感性を磨くことによって、悲しみやつらさから逃避するどころか、それと向き合い、乗り越えていく力を高めることができるのだ。

 本書はデザインの本でも、いわゆる自己啓発書でもない、世界に一つしかない不思議な本である。宝石箱のような逸話の数々と、知的に楽しい議論。そして日本のものや人が多く登場するのも、喜びがより身近に感じられてうれしい。

 五感を研ぎ澄まし、目の前に無限に広がっているさまざまな喜びを楽しみながらお読みいただければさいわいである。

<大反響! 連載人気ランキング>
第1位:「人生は良いものだ…」と毎日ちゃんと感じるため、絶対にすべき1つの習慣
第2位:やる気ゼロでも、一瞬で「脳がポジティブになる」1つの動作
第3位:服を変えるだけで「内面」まで変えられる理由


■新刊のご案内

『Joyful 感性を磨く本』
イングリッド・フェテル・リー著、櫻井祐子訳
定価1870円
ダイヤモンド社

★20ヵ国で続々刊行! 世界的ベストセラー!
★世界最高の創造集団IDEOフェローの話題作!
★アダム・グラント(『GIVE & TAKE』著者)、
アリアナ・ハフィントン(ハフポスト創設者)、
デイヴィッド・ケリー(IDEO創設者)他、
全米各誌紙、メディアで絶賛に次ぐ絶賛!

光、色、形……日常的に目に映るものが、
つねに内面に与えている大きな影響とは。
神経科学×心理学の最新知識からわかった、
自分を変える「10の扉」を開けていこう。

◎世界は「知らない色」であふれている
◎光は「気分」「集中力」「生産性」に影響する
◎なぜ、「たくさん」にうっとりしてしまうのか
「レインボー」は強烈な喜びを生む
◎世界で「最も好まれる絵画」の共通点
◎無秩序が人に「ずる」をさせる
◎最も美しい「不完全な調和」
◎丸いものを見ると「遊んでしまう」メカニズム
「かわいさ」は注意力を高める
◎うれしいとき、体は「上」を向く
◎人は「軽み」を喜びととらえる
◎日常を「魔法の瞬間」に変える
◎リズムで「仲間意識」を体に刷り込む
「巨大なもの」は喜びになる
◎花は「食料の予告編」だった

■目次より

はじめに──「10の美学」で感性を磨く
・「日常」の見え方が大きく変わる

■第1の扉:エネルギー──「パワーの源」を見つける
・色は人の「行動」を変える
・身のまわりに光を「塗る」

■第2の扉:豊かさ──「たくさん」のもので囲む
・「過剰なもの」の抗いがたい魅力
・豊かさを「極限」まで追求する

■第3の扉:自由──「野生」を呼び覚ます
・大自然の「映像」を見るだけで暴力が減る
・日常に「野生」を取り込む

■第4の扉:調和──「美しい秩序」に気づく
・「並んでいるもの」は美しい
・「パターン」が脳にもたらす力

■第5の扉:遊び──「まじめ」から踏み出す
・「遊び」ほど特殊な行動はない
・もので「キュー」を出す

■第6の扉:驚き──「日常」を打ち破る
・驚きは「脳」を覚醒させる
・グーグルも「隠して明かす」を使っている

■第7の扉:超越──「高み」に目を向ける
・上向きは愉快、下向きは悲しい
・「光」が超越感をかき立てる

■第8の扉:魔法──「不思議」に心を開く
・魔法は「日常の下」に隠れている
・「科学」は魔法を締め出せない

■第9の扉:祝い──感情を「爆発」させる
・「きらめき」は目を覚醒させる
・なぜ誰もが「風船」に惹かれるのか?

■第10の:新生──「新しい自分」になる
・「生まれ変わった」気持ちになる
・生命は「渦」を巻いている