私自身は、AIという技術の進展を肯定的に捉えているかどうかで言うと、もう好きか嫌いかと言っている暇もなく、「いずれにしても進んでいく」という時期に立たされているような気がします。どちらかといえば、「もう、そうなるところはしょうがない」という感じですね。実際もう、一部分は生活の中に取り込まれてきていますから。だから、肯定や否定をする前に、すでに人間生活に浸透してきているものに対してどう対処していくか、という思考の仕方で考えていった方がいいのかなと。AIが一切ない世界だった過去には戻れないですから。

 ただ、もう一つ重要なことがあります。現在AI開発をしているのは、超大企業が多い。しかし今後、汎用的に普及して実用化していこうという段階になったときに、やはりエネルギーの問題は、絶対出てくると思うんです。膨大な電力を使うという点で。

 そう考えてみると、小さいエネルギーで大きな処理をするというモデルとして、一番参考になるのが人間の脳じゃないかと。最終的に汎用的なAIを作ろうと思ったら、脳の研究は絶対必要になるなと思っているんです。ただ、脳の研究自体がものすごい、エベレストみたいなところなので(笑)、容易には踏み出せない。だったらもう少し簡単にできるところからやっていこうというのが、今のAI開発の実態なんじゃないかなとは思います。

養老 一方で、開発の未来を考えたときに、人って「できる可能性のあることはやる」というか、「できることは何でもやっちゃう」という、ある意味では悪い癖がある。そこも考えていく必要はあると思いますよ。

人はパンドラの箱を開けてしまう

 原子力工学がそうでしたよね。私が若い頃は、原子力工学は、勉強ができる優秀な連中が専攻する分野だった。東大でいうと、元総長の向坊隆さんが、東大の工学部に原子力工学科(注:現在はシステム創成学科に改編)を創設した人ですから。

羽生 ああ、そうなんですか。

養老 はい。その時代までが、おそらく日本の原子力技術のピークでしょうね。原子力工学なんて、原因と結果がきれいに揃う、つまり「これがあって、こうなる的思考」の極みの学問でしょ。僕はAIを否定するわけではないけれど、いずれ、どこかの領域でそういう問題も起こってくるんじゃないかと思うんです。

 僕が一番困る領域だと考えているのは、生物が絡んでくる分野。生物がAI的に扱われてしまうんですね。これはちょっと危ない。

 どこまで突き進んで行くのか危ういなと思う分野というのは、生物学界隈でいろいろ出てきていて。例えば、「ゲノム編集」みたいな分野は、何が何だかまだわからない状況の中で、キーワードが流行ると、メディアにバンバン情報が出てしまう。