棋士・羽生善治九段
棋士・羽生善治九段 Photo by Hiroaki Kurosawa

将棋の世界もAI(人工知能)が席巻している。将棋の分析や研究にAIを使うことがあたり前といわれるほど浸透し、かつての常識であった定跡は覆され、新しい定跡が生まれている。また、藤井聡太七段のように若い頃からAIを使った研究を取り入れている棋士も登場し、今後さらに同様の経験を積んだ新進気鋭の棋士が増えていくと予想される。将棋界の第一人者であり、AIにも深い知見を持つ羽生善治九段にその可能性と未来についてどのように考えているのかをうかがった。(聞き手/三菱総合研究所 亀井信一、飯田正仁、薮本沙織)

本記事は書籍『「フロネシス」22号 13番目の人類』(ダイヤモンド社刊)からの転載です。

棋士の常識を超えた
恐れを知らないAIの定跡

――現在、AIを搭載した将棋ソフトの能力は、どのレベルにまで到達しているのでしょうか。

 進化のスピードで説明するとしたら、1年経つと当時の最強ソフトに7~8割の確率で勝つことができるほどの進歩をしています。私を含めて人間は、前年の自分に対してそれだけの確率で勝つことはできないでしょう。

 もともと将棋のAIは、2005年に保木邦仁さんの開発したBonanza(ボナンザ)という当時の最強ソフトがオープンソース化(プログラムを公開)され、それをベースに自由に更新する形で進化してきました。評価関数という、局面を解析してポイント化する基準があるのですが、人間が局面を判断するのに用いる要素は、手番、厚みなどせいぜい10程度。しかし、AIを搭載した将棋ソフトは現在、1万以上のパラメータを使って局面を判断します。さらに膨大な手のなかから一つを選択するには、「これは無駄な手だ」と瞬時に判断する必要があります。現在の将棋ソフトはこの無駄なものを削ぎ落としていく「枝刈り」の精度もかなり上がっているため、人間よりはるかに多い候補手のなかから最高ポイントの手を指してくることになります。

 また、オープンソース化することによって開発のハードルが低くなり、将棋をまったく知らないプログラマーも開発に関わることができるようになりました。そのため、棋士の常識を超える考え方が入ってきているのも進化の要因でしょう。将棋の世界では長年定跡とされてきた手が覆され、新しいAI流の定跡が生まれているわけです。

 現在では、ほとんどの棋士が将棋ソフトを使って研究しているため、実際に対局すると、「ここまではAIで研究してきたな」とわかる場合がありますね。

――現在最強といわれるAIとして「アルファゼロ」がありますが、将棋を指させると、これまでの人間の常識にない手を指してくるそうですね。