今、最も注目を集める急成長企業ワークマン。
10月16日、横浜・桜木町にオープンした次世代店舗「#ワークマン女子」1号店には、3時間の入店待ち行列ができたという。
そんなワークマンは「しない会社」だ。
◎社員のストレスになることはしない
残業しない。仕事の期限を設けない。ノルマと短期目標を設定しない。
◎ワークマンらしくないことはしない
他社と競争しない。値引をしない。デザインを変えない。顧客管理をしない。取引先を変えない。加盟店は、対面販売をしない、閉店後にレジを締めない、ノルマもない。
◎価値を生まない無駄なことはしない
社内行事をしない。会議を極力しない。経営幹部は極力出社しない。幹部は思いつきでアイデアを口にしない。目標を定め、ノルマを決め、期限までにやりきるといった多くの企業がやっていることは一切しない。とりわけ「頑張る」はしないどころか、禁止だ。
それでも業績は、10期連続最高益を更新中だ。
2020年3月期は、チェーン全店売上(ワークマンとワークマンプラス)が1220億円(前年同期比31.2%増)。営業利益192億円(同41.7%増)、経常利益207億円(同40%増)、純利益134億円(同36.3%増)となった。
なぜ、コロナ禍でも業績が伸び続けているのか。
「データ活用ゼロ」だったワークマンが、どうやって自分の頭で考える社員を育てたのか。
このたびワークマン急成長の仕掛け人である土屋哲雄専務が、Amazonに負けない戦略など4000億円の空白市場を切り拓いた秘密を語り尽くした初の著書『ワークマン式「しない経営」』がジュンク堂書店池袋本店、ブックファースト中野店などでビジネス書ランキング1位となり、発売たちまち重版。日経新聞にも掲載された。
なぜ、「しない経営」が最強なのか?
スタープレーヤーを不要とする「100年の競争優位を築く経営」とは何か。
ワークマン急成長の仕掛け人、土屋哲雄専務が初めて口を開いた。
「善意型」サプライチェーンで
取引先を変えない
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を『ワークマン式「しない経営」』で初めて公開。本書が初の著書。
ワークマンには取引先を変えないという企業風土がある。
取引している国内ベンダー(製造元)は約150社で、うち31社の主力ベンダーとは長いおつき合いだ。
この31社とはオンラインでつながっている。
ベンダーは当社の個別店舗を含むすべての販売データと在庫データを見ることができる。
当社の流通センターの在庫と出荷量もわかる。ベンダー担当者は当社の需要予測システムの予測値を参考に最終納品数を決め、自主的に納品する。
当社はそれを全量買い取っている。
これを「善意型」サプライチェーンと呼んでいる。
この話をすると、
「ちょっと変わったしくみですね」
「そんなことをして大丈夫なんですか!」
と驚かれる。
従来のサプライチェーンは中心にいる会社に都合よくできている。
中心にいる会社はほしいときに、ほしい分だけ、ほしい部品や部材が手に入る。
だが、部品を納める協力会社の苦労を考えたことはあるだろうか。
ずっと買ってもらえる代わりに、機会損失を補償しなければならない場合もある。
自動車の場合、部品供給業者は自動車メーカーの工場近くに倉庫を建て、そこに自分で部品を保管する。
そして自動車メーカーが必要な部品を1日数回程度に分けて製造ラインまで届ける。
自動車メーカーのラインに届いた時点で所有権が移転され、それまでは部品供給業者のもの。欠品すれば機会損失となり、自動車が製造できず、販売できなかった分の利益を補償しなければならない。
かつてデル(Dell)は東芝のハードディスクを必要なときに毎日仕入れていた。
アメリカのテキサス州にあるオースティン工場の横に東芝が巨大な倉庫をつくり、大量の在庫を抱えていた。
デルにとっては都合がいいが、東芝にとっては苦しい。
このコストをお客様に価格転嫁するから、サプライチェーン全体では効率が悪い。
以前、夏場にコンビニエンスストアでおでんが大量に売れてしまい、具材が提供できなくなったため、数億円の機会損失補償を払った会社の話を聞いたことがある。
本部の注文に迅速に対応するために、業者は在庫を抱えていなければならない。
食品などの場合は大量廃棄しなくてはならないこともある。
従来のサプライチェーンは、中心にいる会社には都合がいいが、原料、部材を供給する会社にはつらい構造になっている。
私はこのしくみを「ムチ」のサプライチェーンと呼んでいる。
この方式では必然的に在庫と廃棄が増え、その分、価格に反映され、最終消費者が支払わされる。
私は常々、もっと合理的なサプライチェーンを構築したいと思ってきた。
私は商社時代(2000年頃)に2年間、アメリカのサプライチェーン協会の日本支部の会長をしていたことがある。そのときから考えていたアイデアがある。
それが「善意型」サプライチェーンなのだ。
サプライチェーンは上流に多くの情報が集まる。
ワークマンで考えると、加盟店より本部が多くの情報を握っている。
加盟店には自分の店の情報しかないが、本部には全国加盟店の情報がある。
さらに本部より供給メーカーは多くの情報を持っている。
供給メーカーはワークマン以外の企業にも製品を提供しているからだ。
情報優位者が製品の提供数を決め、提供された側はその「全量」を買い取るのが「善意型」サプライチェーンだ。
それが「ちょっと変わった」しくみで、ベンダーが判断して納品したものを無条件で買い取る方法。
主力ベンダーは、その道20年、30年のベテランが在籍して舵(かじ)取りしているうえに、ワークマン以外の店舗も見ている。
そこにワークマン本部から惜しみなく情報を提供する。
個店売上、地域売上、個店在庫、物流センターの出荷量と在庫情報をすべて提供し、ベンダー側で出荷数量を自主的に決め、自主納品するようにした。
納品された製品はワークマンが全品買い取る。
その結果、サービス率(需要に対し製品を供給できた割合)が93%から97%に上昇。在庫回転日数は27日から24日に短縮。
ワークマンでは発注業務がなくなった。