全工程に「善意」が流れる信頼関係のしくみ

 同じことを加盟店ともやっている。加盟店は独立経営だから、ワークマン本部が勝手に製品を入れることはない。

 そこで店舗から本部へ発注する端末の画面に「一括発注ボタン」を設置。何を買うかはワークマン本部が決定するが、最終決定は各店舗の経営者が独自に行う。ただ、多くの加盟店は忙しいので、「一括発注ボタン」を押している。

 情報優位者が「善意」で決定する。各メーカーはワークマンの代わりに決断する。

 ワークマン本部は加盟店の代わりに決断する。それを加盟店は「一括発注ボタン」を押して全量受け入れる。

 ワークマンはメーカーが決めた納品量を無条件で全量受け入れる。

 このしくみには「善意」が流れているから、相手のために決断するときは相当悩む。

 過剰在庫や欠品を起こせば心が痛む。それがサプライチェーンを適正にするエネルギーになる。

 さらにここには「営業担当者」という人の存在がある。

 営業は基本的にお客様側につくものだ。

 各メーカーの営業担当者はワークマンの立場で考えてくれる。

 ワークマンのスーパーバイザー(SV)は加盟店の立場で考える。

 こうした良好な関係が「善意型」サプライチェーンの潤滑油となる。

 また、ワークマンには善意になれるしくみもある。

 当社のSVが加盟店に誤って多めに在庫を持つことをすすめても、値引になるときは本部がロスの6割を負担するからだ。

 大手コンビニ本部と比べると大きな負担率だと思う。

 今後は海外メーカーとの取引にも「善意型」サプライチェーンを導入していく。

 中国など海外メーカーはドライといわれるが、そんなことはない。

 中国に出張したとき、ワークマン向けの製品を工場の2階に確保しているのを見つけたことがあった。

「けしからん。横流ししているじゃないか」と思ったら、そうではなくワークマンのために1ヵ月分つくりおきしてくれていた。善意でバッファを持ってくれていたのだ。

 当社は長期間、取引先を変えない。

 海外メーカーとも10年以上おつき合いしている。

 毎年、価格入札するが、結果として変わっていない。

 はじめから強いメーカーを選定しているからだ。

 その間に信頼関係と相手を思う気持ちが生まれてくる。

 だから、各メーカーを信頼して納品を任せることができる。

 小さな価格差で、メーカーを変えてはいけない。大きな直接的なスイッチングコストと信頼関係ができるまでの時間のロスが発生するからだ。

土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。