新型コロナウィルスの影響で外出時間が減った今年、なんとなく日々重たいような気分を感じているという人も多いのではないだろうか。そんな中、世界最高の創造集団IDEOのフェローによるきわめて画期的な本が上陸した。『Joyful 感性を磨く本』(イングリッド・フェテル・リー著、櫻井祐子訳)だ。
著者によると、人の内面や感情は目に映る物質の色や光、形によって大きく左右されるという。つまり、人生の幸不幸はふだん目にするモノによって大きく変えることができるのだ。
本国アメリカでは、アリアナ・ハフィントン(ハフポスト創設者)が「全く新しいアイデアを、完全に斬新な方法で取り上げた」、スーザン・ケイン(全米200万部ベストセラー『QUIET』著書)が「この本には『何もかも』を変えてしまう力がある」と評した他、アダム・グラント(『GIVE & TAKE』著者)、デイヴィッド・ケリー(IDEO創設者)など、発売早々メディアで絶賛が続き、世界20ヵ国以上で刊行が決まるベストセラーとなっている。
その驚きの内容とはどのようなものか。本書より、特別に一部を紹介したい。「上向きの動き」が体にどういう効果をもたらすかを説いた一説だ。
ポジティブな言葉は「上部」にあるほうが見つけやすい
喜びは、私たちの言語に刻み込まれている。
天にも昇る心地。ウキウキする。宙に浮くような気持ち。うれしいときは高揚し、意気揚々とし、落ち込んでいるときは意気消沈する。
研究によると、こうした喜びと上方向との関連づけは、無意識的で自動的に行われるという。
たとえばポジティブな言葉は、パソコンの画面の上部に表示されている方が、下部に表示されているよりも見つけやすく、ネガティブな言葉は下部に表示されている方が見つけやすい。
手の動かし方で「思い出すこと」が変わる
1920年代に行われた研究では、被験者に多様な形状の線を見せ、「陽気」または「愉快」に見える線を選んでもらったところ、圧倒的に多く選ばれたのは上向きに上昇している線で、下向きに下降している線は「悲しい」とみなされた。
上方への動きは、喜びとも相関している。
たとえば最近の研究で、被験者に上下2つのトレーの間でビー玉を移動させながら、過去のできごとを思い出してもらった。
被験者はビー玉を上に動かしているとき、つまり下のトレーから上のトレーに移動させているときは、下に動かしているときよりも、ポジティブなことを思い出す傾向が強かった。
うれしいとき、体は上を向く
感情が垂直軸に沿って変化するように思われるのはなぜだろう?
認知言語学者のジョージ・レイコフと哲学者のマーク・ジョンソンによれば、それは私たち自身の体の成り立ちがもとになっているという。
人はほほえむと口角が上がり、しかめっ面をすると口角が下がる。喜びあふれる体は上向きだと、ダーウィンも指摘する。
「この状態の人は、まっすぐ立ち、頭を高く掲げ、目を見開く。顔面には下がっている部分は一つもなく、眉をひそめることもない。……上機嫌の人の表情全体が、悲しみに苦しむ人の表情の正反対である」
喜びの比喩と同様、健康や活力の比喩には上向きの特性があるのに対し(「健康のピーク」「絶好調」など)、病気は下向きである(「病に倒れる」「風邪でダウンする」など)。
レイコフとジョンソンは、喜びや幸福の身体的経験には上向きの特性があるから、「上向き」は私たちの生活に起こるポジティブなことのたとえになったのだと考える。
(本稿は、イングリッド・フェテル・リー著『Joyful 感性を磨く本』からの抜粋です)