大学受験の最難関である東大理三に、4人のお子さん全員を合格させた佐藤亮子さん。2015年の秋に佐藤さんにお会いして以来、取材や講演などで軽く100回以上お話を伺った。驚くのは話の引き出しの多さだ。
今までに幼児教育の重要性、中学受験や大学受験のサポート方法、子育て論などについてたくさんお話を伺ったが、新著『東大理三に3男1女を合格させた母親が教える 東大に入るお金と時間の使い方』は「お金と時間」という新しい切り口。「佐藤さんはどのようにお金と時間を使ったか」に加え、子どもの学力を伸ばすためのさまざまな佐藤ママメソッドが紹介されている。
第一子であるご長男を授かった時、佐藤さんは「子どもの未来の可能性を拓くために重要なのは教育。本人が希望する道に進めるよう、能力を最大限に伸ばしてあげたい」と思ったという。ご長男が生まれる前から小学校の教科書に目を通し、童謡集を購入するなどの準備を始めた佐藤さんは、教育費は惜しまず、時間の無駄を省いてきた。
わが子の幸せな未来のために学力を伸ばしたい、わが子を東大に入れたいと考える方はもちろんのこと、社会人や専業主婦にとっても役に立つ情報が満載だ。5回に分けて、佐藤さんの魅力、独自の子育て、書籍の特徴などについて紹介したい。(教育ジャーナリスト 庄村敦子)

東大理三に3男1女を合格させた母親の<br />「超時間術」とは?Photo by Adobe Stock

 東京大学学生委員会が調査を実施し、「学生生活実態調査報告書」を公表している。最新の2018年のものをみると、東大生の母親の職業は「無職」が34.2%で一番多い。東大生のご家族の取材をしたときも、専業主婦が多かったように思う。

 私の長女が通った都内の中高一貫の女子校は、東大や医学部を目指す生徒が多く、保護者会前のランチのときにお話しすると、専業主婦が思った以上に多かった。

 話題は子どもや勉強のことがメイン。定期テストの暗記などを手伝ったり、勉強を教えてあげたりする母親と、「子どもに任せていて、何もしていない」という母親とに分かれた。

中学受験は「親子の受験」だから、親のサポートは必要不可欠だが、中学入学後は、引き続き母親がサポートを続けるご家庭と、子どもに任せるご家庭とに分かれるようだ。

 東大理三に3男1女を合格させた佐藤亮子さんは、お子さんが生まれる前からサポートのための準備を始め、大学受験まで全力でサポートを続けた。

「きょうだい平等」を重んじ、中学受験までは同じようにサポートしてきた佐藤さんだが、中学受験以降はお子さんによってサポートの度合いが違った。それはお子さんたちの性格が違うからだ。

 佐藤さんによると、ご長男は自分で計画を立て、自分で勉強するタイプで、一番手がかからなかったという。次男さん、三男さん、お嬢さんの勉強にはとことん付き合い、4人のお子さん全員の模試の整理や過去問の製本などのサポートを行った。

 私はというと、長女が日能研に通っていた約2年間は仕事をセーブして、懸命に中学受験のサポートを行った。しかし、長女が志望校に合格したあとは、「勉強のやり方も教えたから、頑張って!」といった感じで、ほとんどサポートを行わなかった。セーブしていた仕事を増やしたこと、長女が中1のときに母が病気になり、看病のためにたびたび帰省していたことが主な理由だった。

 佐藤さんの全力サポートの話を伺うと、「もう少し私がサポートをしてあげれば、もっと楽に勉強できたかな」と感じることもあった。今振り返ると、両親の帰りが遅いときには7歳下の妹の面倒を見てくれることもあり、よく頑張ってくれたと思う。

 長女が通った学校の生徒のなかには、「勉強が趣味」「数学の問題を解くのが楽しい」というお子さんも少なくなかった。でも、そうではない子どもの方が世の中では多いだろう。その場合、佐藤さんが実践したようなサポートがあると、無駄な時間を省くことができ、勉強の効率がグンとあがる。

 子どもの1日24時間をどのように使わせるか、が重要だ。

 佐藤さんの口癖のひとつが「そんなの、時間の無駄でしょ」。著書『東大理三に3男1女を合格させた母親が教える 東大に入るお金と時間の使い方』には、佐藤さんの「時間」に対する考え方や「時間の無駄を省く」方法がたくさん出ている。そのなかのいくつかを紹介しよう。

●子どもの睡眠時間は削らない
 睡眠時間を削ると体調を崩しやすいため、佐藤さんはお子さんたちが幼い頃から睡眠時間を大切に確保してきた。受験を目前に控えた冬休み以降も、睡眠不足にならないように十分注意したという。

「寝るときにはしっかりと寝させて、起きている時間は無駄に過ごさせない」というのが、佐藤さんの考えだ。このため、お子さんが勉強にすぐに取りかかれるよう、勉強の計画や準備を担当した。

●探す時間は無駄
 整理整頓ができていないと、必要なものを探すのに時間を費やしてしまうのは、大人も子どもも同じだ。「必要なものを探すところから始めるという行為ほど無駄なものはない」。そう考える佐藤さんは、100円ショップでクリアケースやクリアファイルを大量に買って、模試の問題と解答、プリントなどを整理整頓した。

 お子さんが中高時代には、ご長男は青、次男さんは緑、三男さんは黄色、お嬢さんはピンクとパーソナルカラーを決め、ケースやファイルの背に、それぞれのカラーのビニールテープを貼り、ひと目で誰のものかわかるように工夫した。

 また、参考書や問題集を本棚から探し出す手間を省くために、100円ショップで、高さ23cm、幅12cm、奥行35cmのボックスを購入して、それぞれのボックスに英文法、物理などの教科名を大きく書いて本棚に並べた。勉強するときにはボックスごと机に持って行き、脇に置いて利用したため、お子さんたちに喜ばれたという。

●子どもの勉強が終わるまでそばにいる
「勉強は孤独な作業だから、子どもたちの勉強が終わるまではそばにいて、絶対に寝ませんでした」と語る佐藤さん。

 3人の息子さんが灘に同時在籍していた3年間は、布団での睡眠時間はなんと2時間半! 著書『東大理三に3男1女を合格させた母親が教える 東大に入るお金と時間の使い方』にも出ている「ある日のスケジュール」の表を見てほしい。

 息子さんたちと御主人のお弁当を作るため、朝4時半に起床。5時50分までお弁当を作った後、息子さんたちを起こす。7時にお嬢さんを起こして、御主人と3人で朝食。午前中は家事やお子さんのためのオリジナルノート作り。午後1時まで昼食をとって休憩したら、3時まで家事、ノート作り、お嬢さんの中学受験塾のお弁当づくり。それからお嬢さんを車で小学校に迎えに行き、塾まで送った後、近鉄奈良駅へ。

「3人の息子たちは、全員一緒に帰って来ないので、1人を駅から自宅まで送り届けたら、また連絡が入って駅に向かい、ピストン輸送を繰り返していました。子どもを待たせなくないので、早めに駅に行き、車中で爆睡していましたね」と笑う佐藤さんは、待ち時間も有効に使い、身体をいたわっていた。

 夕食はピストン輸送の合間に作ることもあれば、日によっては、全員が帰宅してから作り始めることもあったという。夕食をすませた午後8時頃から午前0時までは、家事、ノート作り、勉強のサポート。お子さんの勉強が終わった0時から入浴とお弁当の下ごしらえをして、2時就寝というハードスケジュール!

 次男さんが灘高校を卒業して上京した後は、急激に睡眠時間が増えたという。ご長男が灘中に入学し、お嬢さんが洛南高校を卒業するまでの13年間、ずっとお弁当を作り続けた佐藤さんには、「本当にお疲れ様でした」という想いしかない。

 取材で4人のお子さんたちと電話で話したとき、全員が「お弁当作り」に感謝していた。

 ご長男は、「毎朝4時半に起きて、お弁当だけではなく、おにぎりも作ってくれました。早朝に家を出ていたため、2時間目が終わった頃にお弁当、お昼におにぎりを食べ、高3の夏までサッカーに打ち込むことができました。勉強のサポートをはじめ、子どもたちのために時間を使ってくれ、子どもたちのやりたいことを尊重し、やらせてくれた母には感謝の気持ちでいっぱいです」と話してくれた。

 もちろん、4人のお子さん全員が、教育費を惜しまずに使ってくれたこと、勉強をサポートしてくれたことに対して、異口同音に感謝の言葉を口にした。

 佐藤さんのお子さんたちには、大きな反抗期はなかったという。いつも自分たちに寄り添ってくれて、お金と時間を惜しまずに使ってくれたことに感謝しているからだろう。

東大理三に3男1女を合格させた母親の<br />「超時間術」とは?