もっともシンプルな論理思考の入門書わけるとつなぐ -これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義-』が発売されました。この本は、難解な「考える力をつける本」に挫折したり、「論理思考とはフレームワークの使い方を身につけることだ」と思っていた人のための、2時間で読める全編ストーリー形式の入門書です。
著者の深沢真太郎氏が「本書は何に機能する本なのか?」を正面から語る、本連載最終回です。(構成:編集部/今野良介)

「考える力なんて必要あります?」

本連載の最後にあなたと一緒に考えてみたいのは、次の問いです。

【Q:人は、「考える」をすれば幸せになれるのか?】

なんだか哲学的な問いのように感じるかもしれませんが、私は、論理的に答えを出す問いだと思っています。

わたしは、実際に、ある人物から次のような質問をされた経験があります。

「深沢さんはいつもちゃんと考えることが大事だとおっしゃいます。難しい問題を前にしたときに、自分自身で答えを出す力をつけなさいという意味であることは理解しています。でも、それが私の人生に必要であることに、どうしても納得できずにいます。考える力をつけたら私は幸せになれるのでしょうか? そうでないなら、考える力なんて身につける必要ないと思いますが

さて、もしあなたなら、この方にどのように答えるでしょうか。「考える」は人を幸せにするのか。私の答えは「YES」です。その真意をお伝えしていきます。

「モチベーション」は存在しない

先日、私はわけるとつなぐ~これ以上シンプルにできない論理思考の講義~』という物語形式の書籍を上梓しました。本書の発売を機会に、ある人材育成を専門にする方とオンラインで対談をしました。日本で活躍するトップアスリートやプロスポーツ選手の育成を専門とする人物です。その方が対談中、このようなことをおっしゃいました。

「私はモチベーションというものは存在しないと思っています。だからモチベーションを上げる研修をやってくれと言われても、即時にお断りするんです。なぜなら、モチベーションとは外から働きかけてどうにかなるものではないからです。自分自身で考えて納得できれば、やる気も行動力も勝手に生まれます。それが世の中でモチベーションと言われているものだと考えています」

私もまったく同じ感覚を持っています。モチベーションとは「動機づけ」という意味で使われる言葉ですが、誰かが無理やり上げるものではない。モチベーションという概念は、自分自身で深く考え、納得することと同義だと思います。

他人のモチベーションは上げられない自分を動かせるのは、自分だけ。 Photo: Adobe Stock

「納得」できたら「行動」できる

・Aさんは前向きに仕事をしない。その仕事が自分を幸せにすると納得できていないから。

・Bさんは転職しない。転職することに納得できていないから。

・Cさんは書店で手にとった深沢真太郎の著作を購入しなかった。その本が自分にとって本当に必要であることに納得できなかったから。

私たちの日常には、このような事象が数多く存在します。行動できないのは、自分の中に「納得」が存在しないからです。

たとえば、もし私が上記のAさんなら、これまでの経験や先入観をいったん排除し、いまの仕事のことをゼロベースで考えようとするでしょう。なぜこの仕事をしているのか。本連載第3回 ”「考える」は「わける」と「つなぐ」でできている。”でもお伝えしたように、なぜ自分は仕事に対して前向きになれないのか、そもそもこの仕事のおもしろさは何だったかなど、現状の問題点を「わける」と「つなぐ」という行為を駆使して明らかにします。そして、出した答えに納得できれば、きっと私は、またその仕事に全力投球できるはずです。

人は、納得すれば行動できます。行動できれば何かが変わります。きれいごとを申し上げるようですが、人は行動することで幸せに近づいていくものなのではないでしょうか。

しかし「行動」は、「納得」のもとにできる行為です。
そして「納得」とは、ちゃんと「思考」することで手にする心の快楽です。
ですから、このような結論を得ることができます。

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思考 → 納得

↓(さらに)

納得 → 行動

↓(さらに)

行動 → 幸福

↓(ゆえに)

思考 → 納得 → 行動 → 幸福

↓(以上より)

思考 → 幸福

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これが、「考える力をつけたら幸せになれるのでしょうか?」という冒頭の問いに対する私の答えです。

正解のない問いに「自分だけの答え」を出すために

もし、いま幸せを感じることができないなら、それは「頭を使って納得することが少しばかり苦手だから」だと私は思います。

誰しも、悲しみや苦しみと隣り合わせで生きています。長い人生、悲しみや苦しみのど真ん中で過ごさなければならない時もあるはずです。誰かの姿が輝いて見えたり、うまくいかないことを他人や世の中のせいにして自分を慰めることもあるでしょう。でも、やはり、その状態が続いているのは「幸せ」ではないように思います。

そんな時こそ、その問題から逃げないことです。しっかり向き合い、自分の頭で考え、正解のない問いに答えを出すのです。納得できる答えが出なければ、それが見つかるまで、いつまでも考え続けることです。

その時にすることは、「わける」と「つなぐ」だけです。わたしは、この本を、そういうつもりで書きました。仕事や学業の問題だけではなく、人生の中で、自分以外は誰も解決できない問題に突き当たった時に、自力で突破口を見出すためのヒントを、「わける」と「つなぐ」という2つの行為に託したのです。

そして、納得できる答えが見つかったら、その答えを信じて行動しましょう。最初はうまくいかなくても、決して諦めないことです。そこまでやった人だけが果実を手にできるのだと思います。もちろん私も、その果実を求めて人生100年時代を死ぬまで生きるひとりです。せっかく生きているのだから、幸せになろうと思っています。おたがい、頑張りましょう。

(連載終)