「投資の神様」と称えられるウォーレン・バフェットの最新の考え方が理解できること、またバフェットが推薦したことで世界中の投資家のあいだで話題の『バフェット帝国の掟』の日本語版の出版を記念して、2014年以来、毎年バフェット率いるバークシャー・ハサウェイの株主総会に出席し、日本におけるバフェット研究者としても有名な、独立系運用アドバイザー尾藤峰男氏(びとうファイナンシャルサービス代表)に寄稿してもらった。連載最終回となる今回は、バフェットのアフターコロナでの次の一手について分析した。アメリカの未来について楽観視しているバフェットは何を考えているのか、我々が参考にできる投資の金言とは?
コロナ禍の無人総会でも、
バフェットは楽観だった!
バフェットが、アフターコロナでどう動くか。大変興味深いところである。
コロナ禍が世界に広まり悲観一色となった2020年の3月~4月に、バフェットは金融株や航空株をたたき売った。そのニュースを聞いて、「コロナで巣ごもり状態の中、バフェットもこれからのアメリカの行く末に悲観的になったのだろう」と思ったかもしれない。
しかし、実はそうではない。全く真逆なのだ。そのあたりをまず、今年のバークシャー・ハサウェイの無人総会でバフェットが話した中から紹介しよう。
バフェットが株主総会で最初に話したのは、アメリカが建国以来、いかに様々な困難を乗り越えてきたか、そしていかにものすごく豊かな国になったか、ということであった。この話に、4時間半の総会の4分の1の時間を充てたのである。アメリカの歴史の勉強になるくらいの内容であったが、ここではエッセンスだけを紹介する。なお、ここで紹介する総会のバフェットの話は、筆者の全逐語訳からのものである。
いくつもの悲劇や困難を乗り越え
アメリカの富は5000倍に!
バフェットはアメリカが1789年の合衆国憲法制定以来、231年のまだ若い国であることを強調した。そして、建国以来、南北戦争、大恐慌、第2次世界大戦、キューバ危機、ブラックマンデー、9/11(同時多発テロ)、リーマンショックなどさまざまな困難に遭ったが、それらすべてを乗り越えてきたと、淡々と話した。
それぞれの出来事についての解説付きだ。父親、祖父が大恐慌で経験したこと、バフェットがその当時、幼少時代に学んだことも、その中で紹介している。そしてその231年の間に、アメリカの富は、実質価値で5000倍に増えたと、バフェット独自の計算ではじき出した。
絶対に、”アメリカはだめ”と賭けるな!
こういった様々な困難や、先人が果敢な精神で乗り越えてきた歴史を縷々紹介し、バフェットはこう強調する。
「絶対に、アメリカはだめと賭けるな」(Never bet against America.)
つまり、投資をする際には「アメリカはこれから衰退するだろう」という判断をベースにしてはいけない、というのだ。
1789年当時からこれまで発展してきたのと同じことが、コロナ禍の真最中の現在も言えるというのだ。バフェットは、コロナも、建国以来起きてきた様々な困難の一つととらえていて、アメリカは必ず乗り越えると、粛然と高らかに宣言した。
筆者も、米国市場の強さは、米国の建国の精神、優れた経済システム、チャレンジ精神あふれる国民性、実力が正しく評価される仕組み、正義を重んじる法体系など、米国という国の根幹に関わるところに根差しているように感じられる。
「残りの人生を、私はアメリカに賭ける」
と総会で宣言したバフェット
一方で、バフェットは、市場への臨み方には、つねに注意が必要であることを強調する。ブラックマンデー、同時多発テロ、今回のパンデミックなど、市場ではなんでも起こり得るというわけだ。アメリカに賭けることはできる。しかしどのように賭けるか、十分に注意しなければならないという。
そしてバフェットは、株への投資は、ビジネスの一部に投資するとみるべきであること、アメリカの追い風は止まっていないから、長い間持っていれば、いい結果になることを強調する。株は、このような方法でやれば、すごく健全な投資だという。「ビジネスの一部に投資するスタンスで買い、長く持つ」は、バフェット投資の究極のエッセンスといってよいだろう。
バフェットはコロナ・パンデミックの中でも、アメリカの将来には超強気である。バフェットは、アメリカに生まれた子は、世界中で最もラッキーな子どもだという。アメリカ人でない私には、何とも言えない気分だが、このことはいつもバフェットが口に出す言葉だ。現在90歳のバフェットは、総会でこう言った。「残りの人生を、私はアメリカに賭ける。」筆者も、投資という面ではよい成果を追い求め、このバフェットの言について行きたいと思うわけである。
S&P500インデックスファンドを買え
さて読者がぜひ知りたいのは、「アメリカに賭ける」その方法であろう。バフェットからは、ここ数年、頻繁に口にするやり方がある。「S&P500インデックスファンド」に投資して、じっと持ち続けろというのだ。これが、アメリカの繁栄の恩恵を確実に取り込める方法であるという。バフェット自身は、「自分はそうするつもりはない」としているが、バフェットの妻に残す遺産は、90%がS&P500インデックスファンド、残りは政府短期証券にしているのだ。
「クロスセクション(筆者注:S&P500インデックスファンド)を買って、20年、30年すれば、よいことになるのは十分わかっている。89歳(当時)の男だから、楽観的なんだと思うだろうが、ビジネスを買うという考えで買い、チップをもって歩き回らなければいいのだ」
これが総会でのバフェットの発言だ。
さてバフェットは、アメリカの将来に超強気の中で、どう動くのか。1500億ドルに及ぶ現金同等物を抱え、バフェットの荷はますます重くなっている。そうした中で買った日本の商社株は、約60億ドルで今ある資金の4%に過ぎない。コロナショックで市場が急落する中、資金要請の声がかからなかったバフェット。いったいどうするのだろうか。そのプレッシャーたるや、如何ばかりかと内心心配になってくるが、これが現実だ。現在バフェットの後を継ぐ2人の運用マネージャが150億ドルずつ運用を任されているが、まだ大半の運用はバフェットの手腕による。
野球は3ストライクで三振だが
我々は絶好球が来るまで待つ
おそらくバフェットにとって、現在のマーケットは、コロナショックから予想外に回復し、買える水準ではないのだろう。バフェットは「一定のシナリオ以外では、行動に出ない」と総会でもいっている。そのシナリオは、おそらくまた下がるとみているのである。日ごろから、こうもいう。
「野球は3ストライクで三振だが、我々は絶好球が来るまで、いつまでも待つ」
この「待つ」という姿勢がバフェットの真骨頂でもあり、我々普通人と違うところなのだろうが、それにしても1500億ドル……途方もない金額である。バフェットも数年前の株主総会で、積みあがる現金についてどうするのかとの株主からの質問に、「まさか(現金が)1500億ドルにもなって、まだ何もしないとは言えない」と答えている。だが、今その1500億ドルに届いているのだ。
その今後の動き方だが、まずは粛々と大型の買収案件が持ち込まれるのを待つということだろう。ただ、より高いオファーで投資ファンドにさらわれるケースがあり、どんな大型買収が実現するのか、世界の投資界は注目している。
最近の大型案件では、昨年オクシデンタル・ペトロリアムのアナダルコ買収に、100億ドルの優先株取得で資金を提供した。また今年7月、ドミニオン・エナジーの天然ガスパイプライン・貯蔵施設を100億ドル(借入60億ドルを含む)で買収している。なおバフェットは、敵対的買収はしない、あくまでも歓迎される買収に限る。また価格を吊り上げる買収合戦に入ることもない。
アップル株は3.7兆円で買って11.5兆円に
ここまで資金が積みあがると、自社株買いも本格的に始めざるを得ないのではないか。バフェットは米国企業の多くが行っているように、割高な価格での自社株買いに批判的だが、バークシャーの株価自体、決して割高とはいえない。実際にバフェットはバークシャーの自社株買いを徐々に増やしている。2019年10~12月22億ドル、今年1~3月17億ドル、4~6月51億ドル、7月に20億ドル以上を自社株買いに充てた。バフェットにも、自社株買いに対する「慣れ」的なものが出てきているのではないだろうか。おそらく、今後は100億ドル単位の自社株買いが実行されるのではないかと、筆者はみる。
バフェットが現在保有する最大の保有株は、2016年から2017年にかけて買ったアップルである。取得コストは352億ドル。現在の評価額は1090億ドルで、3.1倍に上昇した。近年では、最大の成功例である。
2016年バフェットが買った当時のアップルのPERはおよそ12倍、アップルは割安株だった。しかし、バフェットが好みそうな銘柄で、安い株は次第に少なくなっている。「エレファント(巨象)サイズの投資がしたい」といっているバフェット。バフェットがいうエレファントサイズは、数百億ドルの規模である。世界の投資界が、次にバフェットが何を買うか、固唾を飲んで見守っている。
尾藤峰男
公認投資助言者(RIA)、びとうファイナンシャルサービス代表取締役
米国CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員、日本FP協会CFP®認定者、1級FP技能士
1973年埼玉県立熊谷高校卒。1978年早稲田大学法学部卒。日興証券に1999年まで21年在籍。投資アドバイスなど主要証券業務に携わる。英国、カナダ、オーストラリア(現地法人社長)の3カ国に勤務。2000年に当社を開業。金融機関から完全に独立した資産運用アドバイザーとして、個人の金融資産や退職金の運用助言・ライフプランニング・サービスを、商品の販売手数料によらずに、フィー(投資助言料)のみで提供している。グローバルな投資理論や外国株投資、国際分散投資への造詣が深い。著者に「いまこそ始めよう 外国株投資入門」「バフェットの非常識な株主総会」。日本経済新聞等に記事掲載、メディア登場多数。
投資助言・代理業登録(関東財務局)
びとうファイナンシャルサービスWebサイト http://www.bfsc.jp/