「ついに投資の神様が日本株を買った!」――。2020年8月31日、ちょうど90歳を迎えた投資の神様は、それまで見向きもしかなった日本株、総合商社5社に約6300億円もの大金を投じていたことを発表し、市場関係者を驚かせた。なぜ日本株を買ったのか。バフェットは何を考えているのか。アフターコロナの世界をどう見ているのか。そもそもバフェットとはどのような人物なのか。バフェットが推薦したことで世界中の投資家のあいだで話題の『バフェット帝国の掟』の日本語版の出版を記念して、2014年以来、毎年バフェット率いるバークシャーハサウェイの株主総会に出席し、日本おけるバフェット研究者としても有名な、独立系運用アドバイザー尾藤峰男氏(びとうファイナンシャルサービス代表)に寄稿してもらった。投資をするなら、もはや常識の域に達した「バフェット」とは?
(文中敬称略)。

2019年株主総会展示会場で、傘下企業デイリークィーンのキャンディをかじるバフェット(撮影:尾藤峰男)

時価総額はトヨタの2.3倍のバークシャー

世界中の投資家が注目し、待望の日本版も出版された『バフェット帝国の掟』が焦点を当てたウォーレン・バフェット。その名を知っている人は多いだろう。日本でも「投資の神様」、「世界有数の大富豪」、「投資で大成功を収めた人物」といたイメージが強いと思われる。

しかしこの人物から学べることは、投資の手法ばかりではない。一度だけの人生をいかに良く送れるかがバフェットから学べるとしたら、この人物に対する見方も変わるだろう。それだけの人物であると、私は感じる。

バフェットは1930年8月30日に生まれ、今年90歳を迎えた。詳細は後述するが、ちょうどその日に(日本時間31日)バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは子会社を通じて、日本の5大商社株(伊藤忠商事、丸紅、三井物産、住友商事、三菱商事。株式コード順)に大量投資したことを発表した。筆者が想像するに、その公表時間には、バフェットは家族と誕生日のお祝いをしていた頃ではなかっただろうか。この商社株買いについては、次回以降に譲るとして、まずはバフェットという人物について語ってみよう。

バフェットは90歳ながら、バリバリの現役CEOだ。バークシャーは100に及ぶ企業群を有し、39万人の社員を抱える。時価総額は全米6位の5000億ドルに及ぶ。日本で最大の時価総額のトヨタ自動車の2.3倍だ。

バークシャーの企業群には、様々な業種の企業が並ぶ。保険、電力、鉄道、各種製造(航空機部品、切削工具、潤滑油、各種基礎部品)、衣食住にわたる事業(たとえばスポーツ用品、日常衣料品、チョコレート、アイスキャンディ、建売住宅販売、食品、プライベートジェット機、宝飾品・家具などの小売り、カーディーラーなど)を有する。

ここで、これだけのコングロマリットを抱えるバフェットの企業統治のやり方を紹介しよう。これは日本人から見ると、驚くべきやり方だ。39万人の社員を抱える統括会社バークシャーの社員はバフェットを含めて25人。バークシャーの年次報告書に映るバークシャー社員の数を数えれば、すぐわかる。そして、本社は、米国中西部のネブラスカ州のオマハのどこにでもありそうなビルの2フロア。ここから、全米の傘下企業にバフェットが号令を飛ばすかというと、そうではない。バフェットは、基本的に「経営を任せる」

バフェット自らこう言っている。

「私の役割は、いかに傘下企業の役社員にやる気をもってのびのびと仕事に励んでもらえるようにするかということと傘下企業への適正な資本配分だけだ」

いわば、裁量権をほぼ全部与える分権経営である。ここから、バークシャーの企業カルチャーが生まれてくる。このカルチャーは、私が観るところでは、独特である。言ってみればこうだ。「のびのびとやれる、仕事にやりがいがある、自分を尊重してもらえる、信頼してもらえる、社会に貢献していると感じられる、人が喜ぶように仕事ができる……」

アップル株だけで約11兆円を保有!

このようなカルチャーは疑いようがなく、バフェットが傘下企業にこうあってほしいという眺め方から、長年にわたり培われたものといってよいだろう。バフェットはいみじくもいう。「我々(バフェットとバフェットの長年の右腕であるチャーリー・マンガー)がいなくなった後も、バークシャーのカルチャーは連綿と続くだろう。そしてその強さを、あらためて世の中が再認識することになるだろう」

このバークシャー傘下の企業群とともに忘れてはならないのが、上場株式への投資である。バフェットは、簡単に言えば、上場株式と企業買収により、このバークシャー帝国を築き上げてきた。特に1965年に繊維会社だったバークシャーを買収した後は、ワシントン・ポスト、コカ・コーラ、アメリカン・エクスプレスなどの市場株式への大量投資で名をはせた。最近でも、アップルやIBM(2011年に買付のちに売却)への投資は世界の投資界の話題をさらった。しかしながら、バークシャーの投資向け資金が巨額になるにつれ、価格にインパクトを与えず、大量の市場株式を買い付けるのが次第に難しくなり、近年は買収に傾いていく傾向が見られる。

バークシャーの市場株式のポートフォリオの時価総額は2000億ドル(6月末現在)。そのなかで2016年から買い付けたアップルの評価額は直近で1000億ドルを超え、買い付けた額の3倍以上に値上がりしている。投資待機資金は1500億ドルに及び、バフェットが次にどういう投資行動に出るか、市場の視線は大変熱いものがある。

手元に16兆円、次の運用先が日本の商社だった!

そうしたなかで飛び出してきたのが、今回の日本の商社株買いというわけだ。バフェットの久方ぶりの新しい銘柄への投資、また米国外の株への投資として、大きく取り上げられた。

ではなぜバフェットがここまで世界の投資界で注目され続けているのか。それは、バークシャー・ハサウェイの株価パフォーマンスをみれば、納得できるだろう。バークシャーの株価は、バークシャー買収後の1965年から2019年まで55年、年率平均で20.3%上昇し続けている。これは大変なことだ。平均で20.3%。50%以上上昇した年は、10回ある。2倍以上になった年が2回。

米国の代表的な株価指数のS&P500は、この55年間年率平均で10%の上昇だ。この10%という数字は立派な数字だが、バークシャーのパフォーマンスの前ではかすんでしまう。

バフェットに投資していれば、株価2万7370倍、36万円が28億円に!

この間にS&P500は196倍と大したパフォーマンスなのだが、バークシャーの株価は2万7370倍だ。これを金額に直すと、実に東京オリンピックの年末にバークシャーに1000ドル(当時の為替レート1ドル360円で36万円相当)投資した人は、昨年末2737万ドル(1ドル105円として28億7400万円)の資産を持っていることになる。

バフェットの生い立ちを早足でたどってみよう。バフェットは9歳の時には、すでに地元の図書館でF(FinanceのF)の付く本を全部読みつくしたという。6歳ころから、コカ・コーラを6本セットで祖父の小売店で買い、近所に1本ずつのばら売りで売って利ザヤを取ったり、チューイングガムを売ったりしてお金を貯め、11歳の時に始めて株に投資した。この時、株をわずかな利益で早々に手放してしまった失敗を今でも苦々しそうに話す。

そして、本屋で手にしたベンジャミン・グレアムの「賢明なる投資家」を読んで、株式投資に開眼した。バフェットはグレアムの投資会社にアナリストとして就職し、そこでみっちりといまでも師匠と崇めるグレアムから、割安株投資の投資手法を学んだのである。この割安株投資は、本来の企業価値より株価が割安になっている株式に投資するという手法だ。

これがいまでもバフェットの投資哲学の底流にある手法だ。たとえると「道端に捨てられたタバコでも、幾服かは吸える」。いわばただのようなものでも、いくらかの価値はあるというわけだ。この「シガー・バット(シケモク買い)」のスタンスが、今回の日本の商社株買いにも表れていると筆者はみる。実は、このシケモク買いで、バフェットはこれまで何度も手痛い失敗をしていて、60年来のパートナーでバークシャーの副会長チャーリー・マンガーから、「多少割高でも質の良い会社を買うべきだ」と諭されている。実際バフェットもそのように質の高い会社に目を向けているが、バフェットの底流には、この割安株投資の手法が連綿と流れていると見てよいだろう。そうした場合に問題になるのがバリュートラップ(割安株の罠)。安いと思って買ったが、業績悪化などでさらに下がってしまったというパターンだ。今回の商社株買いでも、そうならないことを願いたい。

2019年株主会場のひな壇のバフェットとマンガー(撮影:尾藤峰男)
わくわくした気持ちで開場を待つ人々――2019年の株主総会会場前(撮影:尾藤峰男)

「幸せな生き方」を学ぶために4万人が株主総会に出席

ここで、冒頭でバフェットから学べることは投資の手法ばかりではないといったことについて、話そう。筆者はバフェットについて20年以上フォローしてきている。2014年からは昨年まで、毎年ネブラスカ州オマハで開催されるバークシャー・ハサウェイの株主総会に毎年出席してきた。

この株主総会は、バフェットが年次報告書に自ら書き下す「株主への手紙」とともに、バフェットが最も重要視する催しだ。今年は残念ながらコロナ禍で、インターネットの無人総会となったが、筆者は全部通して視聴した。この無人総会でも例年と同じように4時間半にわたり、世界中の株主からの質問にバフェットは誠実に答えていた。

例年の株主総会には、世界中のプロの投資家、幼児から老夫婦まで4万人以上が集まる。なぜはるばるアメリカの何もない田舎の州にまで足を運ぶのか。それは、投資の成功法を学ぼうということだけが目的ではない。バフェットからいかにしたら幸せな人生を送れるかを学ぼうという動機が働くからだと思う。そして、その吸引力は、バフェットを知れば知るほど強くなるのだ。私自身も、年とともにそれを強く感じる。バフェットは、いわば歴史上最高の投資家であるとともに、生きる偉人とみるのが妥当だろう。この株主総会の模様については、別の機会に紹介しよう。

バフェットの言葉の数々から、人生に大切なことが数多く学べるのを筆者も感じる。ここでその言葉を上げだしたら、とても紙面が足りないが、一つだけ成功する人生を送るうえで、筆者が大変糧になるとみるバフェットが発した言葉を紹介しよう。

「できるだけ早く自分が好きなこと(筆者:仕事と解する)を見つけ、それをできるだけ長く続けることだ」

このこと自体をバフェットが体現しているといってよい。バフェットの全資産がバークシャー株である中、バフェットの資産額は、優に1000億ドル(日本円で10.5兆円)を超えた。そして、すでに遺言としてバフェットの資産のほぼ全部であるバークシャー株を、ビル・ゲイツが立ち上げた慈善団体のビル&メリンダ・ゲイツ財団に寄付し始めている。このバフェットの人生の過程は、まさにバフェットの先ほどの言葉を表しているものである。バフェットはいう。

「私はいまでもタップダンスをしている気分で会社に行っている」

2017年展示会場にて、当時バークシャーの取締役だったビル・ゲイツと(撮影:尾藤峰男)

大富豪が驚くほど質素な生活で幸福でいられる理由

さて、バフェットの生活スタイルからも、我々が学ぶことは多い。毎日車で5分のオフィスに行き、途中でマクドナルドの3ドル前後の朝食セットを買い、デスクで食べる。通勤時間が往復10分。これが60年間続いている。普通の人に比べれば、これは大変な時間の節約だ。それからは、新聞、情報誌、関心ある書籍など、一日500ページ、5~6時間は読むことに費やすという。バフェットはほとんど毎日をこのように過ごすといったら、驚くだろう。バフェットはこうして過ごすことを大変大事にする。自宅は1956年に3万1500ドルで買った家に今も住み続け、給料は社員より安い年10万ドル。しかも使わないので余った5万ドルは毎年会社に返しているというのだ。

バフェットが1956年に3万1500ドルで買って今も住み続ける自宅(撮影:尾藤峰男)

ここから見えてくることは何か。実はこれまでしばらく述べてきたことの中に、バフェットの成功が隠されている。自分の好きなこと(投資)をできるだけ早く(11歳から)始め、それを長く(現在90歳)続ける。そしてその続けた方法が、長くやればやるほど成果が最も上がる方法だったのだ。その方法とは、複利効果を最大化させる方法といってもよい。このことをバフェットは次のようにいう。

「できるだけくっつきやすい雪を見つけ、それをできるだけ長く坂を転がすことだ」

くっつきやすい雪とは、利益を上げる高収益の会社だ。そし「長く転がす」とは長く持って複利の恩恵を受けるということである。

そして、この複利効果は、普段の生活の中にもみられることを忘れてはならない。もっとも効果が上がるやり方を60年続ける。通勤時間の節約。毎日読書、勉学にいそしむ。お金は使わないで「出(いずる)を制する」。大体本当の金持ちとは、倹約家だ。これもバフェットを見習うべき点として大きい。こうして、バフェットの人生もお金も「雪だるま」というわけである。

バークシャーの投資に充てられる現金同等物は、どんどん積みあがっている。その額は2019年末1250億ドル、2020年3月末1370億ドル、6月末1466億ドルだ。市場は、この資金がどう投資に向けられるか注視している。今回日本の商社株を買った額はおよそ60億ドルだ。バークシャーの投資に充てられる資金の規模がいかに大きいかがわかるだろう。今年に入ってのバフェットの投資行動を見ていると、やや一貫性にかける面もある。また、コロナ禍でマーケットが急落するなか、バフェットはほとんど何もしなかった。どうしてか。また日本の商社株買いの意図、バフェットは今後どう動くかについて、次回以降、筆者の見方を述べたい。

尾藤峰男
公認投資助言者(RIA)、びとうファイナンシャルサービス代表取締役
米国CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員、日本FP協会CFP®認定者、1級FP技能士
1973年埼玉県立熊谷高校卒。1978年早稲田大学法学部卒。日興証券に1999年まで21年在籍。投資アドバイスなど主要証券業務に携わる。英国、カナダ、オーストラリア(現地法人社長)の3カ国に勤務。2000年に当社を開業。金融機関から完全に独立した資産運用アドバイザーとして、個人の金融資産や退職金の運用助言・ライフプランニング・サービスを、商品の販売手数料によらずに、フィー(投資助言料)のみで提供している。グローバルな投資理論や外国株投資、国際分散投資への造詣が深い。著者に「いまこそ始めよう 外国株投資入門」「バフェットの非常識な株主総会」。日本経済新聞等に記事掲載、メディア登場多数。
投資助言・代理業登録(関東財務局)
びとうファイナンシャルサービスWebサイト http://www.bfsc.jp/