インクジェットプリンター大手のキヤノンが、リサイクルインクカートリッジ事業大手のエコリカから独占禁止法違反で訴訟を起こされた。たとえ敗訴しても損害賠償請求額は3000万円で、売上高3兆5933億円(2019年)の大企業キヤノンからすれば小さな傷かもしれない。だが糾弾された企業体質が裁判で認定されれば、企業イメージ毀損(きそん)は決して小さくない。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
独禁法やリサイクル法制をたてに
再生品最大手エコリカが差し止め請求
国内リサイクルインクカートリッジ(再生品)最大手のエコリカが10月27日、インクジェットプリンター大手のキヤノンを相手取って、大阪地裁に提訴した。「市場への再生品の参入を妨害し私的独占を形成している」として、近年発売されたキヤノン主力の純正品インクカートリッジの仕様変更と損害賠償3000万円を請求している。
キヤノンは11月2日時点では「事実上係争が始まっており、コメントできない」としている。エコリカは「再生品の市場の存在自体が危ぶまれる問題」としており、訴訟の行方に注目が集まる。
言わずもがなではあるが、インクカートリッジはプリンターに装着して使用する消耗品のことだ。大手インクジェットプリンターメーカーは独自のインクカートリッジを純正品として販売しているが、インクカートリッジ市場にはサードパーティと呼ばれる再生品、互換品、詰め替えインクの各事業者も参入している。
大阪市に本社があるエコリカは2003年創業。家電量販店に設置した回収箱などを通じて使用済みのインクカートリッジを集めた後、純正品メーカーの知的財産権(特許権、意匠権など)を侵害しない製造工程で自社のインクを充填、インク残量データを初期化するなどし、再生品にして市場に投入する会社だ。キヤノン製品に限らず、競合のセイコーエプソン、ブラザー工業、米ヒューレットパッカード(HP)、リコーの各製品も扱う。再生品は純正品より2~3割ほど安い。
これまで純正品と再生品は“いたちごっこ”の関係にあった。キヤノン製品に限って説明すると15年発売の主要インクカートリッジまでは、純正品が出る度にエコリカは回路基板の記憶素子や内部格納データを解析するなどして、早ければ8カ月後、遅くても1年8カ月後にはエコリカブランドの再生品を発売してきた。エコリカはその過程を「企業努力だ」と説明する。その結果17年末時点ではキヤノン製インクジェットプリンター対応インクカートリッジ市場(家電量販店店頭POSデータ)で、キヤノン純正品が84%、エコリカブランドの再生品が10.9%だったという。
だがそのいたちごっこが17年9月発売のキヤノン純正品インクカートリッジ型番BCI-380シリーズおよび381シリーズから見られなくなった。つまりエコリカは再生品を開発できないでいるのだ。エコリカには一部消費者から「再生品はいつ発売されるのか」との問い合わせが相次いでいるようだ。
なぜいたちごっこが終わったのか。