JR西日本が目指す
デジタル戦略とは

 鉄道事業者のデジタル戦略というと、どんな「AI」や「アプリ」を作るのかという矮小(わいしょう)化された話になりがちだが、JR西日本の取り組みは、もっと地道で壮大な「コーポレート・トランスフォーメーション」を目指したものだ。

 もちろん、AI技術を活用したデジタルソリューションも彼らの業務の一つではあるが、最大の使命は、これまでの大量輸送を前提とした経営から、アフターコロナの時代に即した経営へのシフトを後押しすることにある。

 宮崎氏は従来のビジネスモデルを「増発増収神話」と表現する。「増発したら利用者が乗ってくれる」というプロダクトアウトの発想から、「どうやって出かけてもらうか」というマーケットインの発想に転換をしなければ、アフターコロナの時代で鉄道事業者が生き残ることはできない。

 JR西日本の昨年度のセグメント別収益は、運輸業が62%、流通業が15%、不動産業が12%、ホテル業や旅行業などその他合計が12%となっており、JRの中でも多角化が進んでいるが、宮崎氏によれば「部門最適の取り組みが乱立して総力戦になっていない」という。

 実際、鉄道の会員サービスである「J-WESTポイント」、ICカード乗車券ICOCAのポイントプログラムである「ICOCAポイント」、JR西日本の運営する商業施設で発行される「WESPO」など、さまざまなポイントプログラムが乱立している。

 これらを統合して航空業界のマイレージのような知覚価値の高いポイントシステムを再構築するとともに、鉄道から関連事業まで一連の顧客の行動を把握し、各部門の取り組みにデータで横串を刺して、数珠つなぎのサービスを実現したいとしている。

 宮崎氏は「山陽新幹線の重要な顧客である新神戸、岡山、広島、新山口から東京に向かうビジネス利用者のシェアを、いかに増やすかということを考えた時、その人たちのカスタマージャーニー(顧客が商品を知ってから利用するまでの道のり)に照らし合わせて、行って帰って来るまで本当に利用者にとって嬉しいサービスになっているのか」と疑問を投げかける。

 そして、「例えば新山口駅では、無料駐車場を提供したり、駅部門はトイレを改装したり、関連事業部門は駅に土産店を出店したりしているが、パソコンを広げてメールチェックするような場所がない。航空機との競合を考えた時に、どういうサービスがあればビジネス利用者が喜ぶのかという発想がなかった」と反省する。