『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

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[質問]
 知識があっても役に立たない(ことがある)のは、どうしてですか?

今役に立たないことこそが、知識の本質である

[読書猿の回答]
 それは〈役に立たない〉ことをも包含することが、いまここにない何かを考えることができる表象能力に基礎をおいた、知識の本質に根ざすからです。

 ヒトは、今すぐには実現しない未来像を《目標》として持つことができるほどに、あるいは今すぐには役に立たない(それどころか間違っていて害になることもあり得る)《知識》を持つことができるほどに、高い表象能力を進化の過程で獲得してきました。

 個々の知識は「もし~だったら、~である」という条件文の形に書き直すことができます。そして今直面している現状と、前段の「もし~だったら」とが合致しないなら、その知識は目下の状況には役立たずです。

 ほとんどの知識が今言ったような意味で目下の状況に対して役立たずのはずです。しかし現状に合致しない(から役に立たない)にもかかわらず、捨てずに持ち続けるからこそ、個々の知識は〈いざというとき〉に役に立つことができます。

 また現状と切り離して保持できることは、目下直面している現実以外のもの(例えば過去の記憶や未来の予想)と突きあわせること、そして共通するものを取り出すことによって、単なる一エピソードを超えた抽象的な知識を作り出せすことを可能にします。

 知識と同様、我々の表象能力に基礎をおくものに〈目標〉があります。現にある状態とは一致していないからこそ目標を目指すことができる訳ですが、このことは目標が時には実現しないことや、間違った目標を抱く可能性もあることを意味します。

 表象の本質は、現実と一致しないことがあり得ること、その意味で間違う可能性を有することです。

 表象の一種である知識(そして目標)もまた現実と一致しない(目標なら実現しない)ことがあり得るし、間違うことも可能です。

 そして表象の強力さもまた、現実と一致しないことがあり得ること、現実から離れることができることに存します。

 現実から離れた表象を持つことができるからこそ、人は目標を持ち問題解決に認知資源を集中することができ、役立たずどころか間違うほど多様な知識を「いつか」のために持つことができます。