■5月「陽性・疑い患者の治療中に発生したトラブル」が増えた(33%)

◎分析
 陽性・疑い患者に直接発生したインシデントが報告されていた一方で、「ECMOのトラブル」「アビガン準備中の数量間違い」「搬送中の突然の心肺停止」「PCR検体提出の不備」など、新型コロナウイルス治療に特徴的とも取れるインシデントが一定数含まれていた。いずれも、看護師、リハビリテーション技師、臨床工学技師が報告していた重症患者のケアに、多くの職能が携わっている様子がうかがえる。

 あらためてベッドサイドにおける飛沫暴露のリスクや恐怖感が想像できる。過酷な現場にあっても、平時と違わず懸命にインシデントを報告しようとする職員を誇りに感じた。

医療安全という「免役」が正常に働けば
問題抽出と改善を、同時に走らせることができる

 コロナに関して言えば、医師によるインシデントレポートの割合が増えていた(通常の約3倍)ことにも注目した。

「新型コロナウイルス診療について医師が強い関心を持ち、特にルールの提案や、対策が導入されたことによるリスクを拾い上げ、率先して報告していた様子が窺えた。有事において、インシデントレポートを活用して、特に医師など、現場のスペシャリストの声をうまく集積することで、問題抽出と改善を、同時に走らせることができる。

 今回の分析結果は、医師が診療において、どのようなことに関心を持ち、どのような問題をインシデントレポートしようと考えるのか、大きなヒントを与えている。これは平時の患者安全活動や、報告文化の醸成にも重要な示唆となる」

 医療安全部門の重要な役割は、患者の安全に関わる問題を抽出し、改善に繋げることにあり、その最大の武器は「インシデントレポート」だ。コロナ禍にあっては、安全部門が冷静に使命を果たすことで感染制御部門も自らの使命に集中できる。医療安全あるいは患者安全という言葉自体は、決して難しい言葉ではないが、実際それがどのような活動を指すのかを分かっている人は少ないのではないだろうか。

 最後に長尾氏は次のように締めくくった。

「仮に新型コロナウイルスが収束したとしても、今後は、どうであれ、パンデミックと共存できる大学病院の在り方を模索することになる。医療経済が厳しさを増す中、私たちは、大学病院として、多くの取捨選択を迫られることになるだろう。新型コロナウイルスは私たちにさまざまな困難をもたらす一方で、成長、発展のためのヒントを投げかけている」