“シリコンバレーの生ける伝説”ジョン・L・ヘネシーをご存じだろうか? アルファベット(グーグルの親会社)の現会長、スタンフォード大学名誉学長という偉大な肩書きを持ちながら、コンピュータ科学分野の最高賞チューリング賞の受賞歴を誇る研究者でもある、ビジネスとアカデミックの世界を極め尽くした人物だ。そんな彼が、ナイキ創業者フィル・ナイトと「次世代のリーダー育成プログラム」を立ち上げるにあたって書籍『スタンフォード大学名誉学長が教える 本物のリーダーが大切にすること』を書き上げた。本書は、ビル・ゲイツから「あらゆるレベルのリーダーにとって不可欠な1冊」と激賞された他、シェリル・サンドバーグ(フェイスブックCOO)、サンダー・ピチャイ(グーグルCEO)など多くの著名人から絶賛を集め、2020年11月、待望の日本版が発売された。本連載では、本書からジョン・L・ヘネシーのメッセージをお伝えしていく。

ビル・ゲイツが激賞する”スタンフォード大学名誉学長”のリーダー論とは?Photo: Adobe Stock

「チーム全員が必要な存在だ」としっかり伝える

 私はキャリアを通して、多くのチームやコラボレーションに関わってきたが、それがうまくいき、ゴールを、あるいはそれ以上のものを達成した場合、チームメンバーはこれで終わりだと思いたくないものだ。

 しかし、コラボレーションをどう完了させるかは、それをどう始めるかと同じくらい重要だ。

 成功するチームでは、グループのメンバーは違いを超えて互いにうまく仕事をし、求めたゴールを達成し、より大きな意味で重要な貢献をしているものだ。

 そんな素質は黄金の価値を持ち、そのままにして、もっと行けるところまで連れて行きたいだろう。またこのメンバーと仕事をしたいと思うだろうし、彼らの輝きを他のチームにももたらしたいと考えるだろう。

 チームの最も優れたメンバーの何人かは、リーダー格に昇進させて独自のチームを組ませたいと考えることもあるだろう。これをどう達成できるか?

 急速に仕事環境が変わっていく現代では、ただ感謝して成功したチームを突然解散させたり、ひどい場合にはメンバーをひとりずつ、あるいは少人数ごとに引き剝がしたりして、チームが自然にしぼむよう仕向けることもある。

 だが、人間の文化の優れた教訓は、チームが成功を収めれば、最後はお祝いやセレモニーの場で、各メンバーそれぞれの貢献が認められ、グループ全体で達成したことが大きな文脈で語られ敬意を払われるべきだと示唆している。

 こうした祝いをただのお別れパーティーだと無視するのは簡単だが、これは意味ある機会でもあるのだ。

 チームを監督する立場ならば、このイベントを周到に準備するのは、チームのストーリーへのあなたの一番大切な貢献となる。

 リーダーから最も若手のメンバーまで、彼ら全員が大切な存在で、チームが達成したことは価値があると伝えられるからである。

 スタンフォード大学の学長を務めた期間、私と妻は感謝を表明するものから、大学への大規模な寄付を祝うものまで、自宅で多くのディナーを主催した。

 最後の年には、16年の任期中に皆の成功に重要な役割を果たしたボランティアやサポーターたちに特別なことをしようと決めた。

 そこで、我々はかつての理事や、カギとなったボランティアやアドバイザー、そしていくつかの重要な取り組みのスタートを手助けしサポートしてくれた人々に、何度か感謝ディナーを開いた。

 ディナーは、「あなたは過去16年間スタンフォード大学のために一緒に努力して、重要な貢献をしてくれました。それによってスタンフォード大学は教員にとっても学生にとってもより良い場所になりました。あなたがいなければ、こうはなりませんでした」という感謝を伝える我々なりのやり方である。

 こうした場では、皆が見ている前で部屋を一巡し、各人がどう成功を支えてくれたのかを感謝するようにしている。

 一人ひとりの成し遂げたことが、大学をどう向上させたのかを知ってもらいたいからだ。彼らの努力には意味があり、それを深く感謝していることを聞いてほしいのだ。

 このディナーの会は、純粋な感謝の念と共通した善意によって、皆が陽気になり素晴らしいものになった。

 コラボレーションとは、こうしたことではないだろうか? ひとりではなれなかったものに、チームでならなれるということではないだろうか?

 チームメイトという大切な人々が次に進んでしまう前に、彼らが自分にとってどんな人々であったかを認識しなくてはいけないのではないか。

 チームである間に、ともに過ごした時間を祝してはどうだろう?

(本原稿は、ジョン・L・ヘネシー著『スタンフォード大学名誉学長が教える 本物のリーダーが大切にすること』〈瀧口範子訳〉の内容を編集・加筆して掲載しています)