“シリコンバレーの生ける伝説”ジョン・L・ヘネシーをご存じだろうか? アルファベット(グーグルの親会社)の現会長、スタンフォード大学名誉学長という偉大な肩書きを持ちながら、コンピュータ科学分野の最高賞チューリング賞の受賞歴を誇る研究者でもある、ビジネスとアカデミックの世界を極め尽くした人物だ。そんな彼が、ナイキ創業者フィル・ナイトと「次世代のリーダー育成プログラム」を立ち上げるにあたって書籍『スタンフォード大学名誉学長が教える 本物のリーダーが大切にすること』を書き上げた。本書は、ビル・ゲイツから「あらゆるレベルのリーダーにとって不可欠な1冊」と激賞された他、シェリル・サンドバーグ(フェイスブックCOO)、サンダー・ピチャイ(グーグルCEO)など多くの著名人から絶賛を集め、2020年11月、待望の日本版が発売された。本連載では、本書からジョン・L・ヘネシーのメッセージをお伝えしていく。

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読書を通して「他者の体験」から学ぶ

 学ぶことで人生はより面白くなるので、私は今でも貪欲に読書を続けている。ウォルター・アイザックソンはレオナルド・ダ・ヴィンチの伝記の中で、ダ・ヴィンチが好奇心の赴くままに7200ページものメモをノートに残していたと書いている。

 これは、知識を探求し可能性を求めることに喜びを感じていた人物の、明らかなしるしだ。

 私も同じように飽きることのない学びへの欲望を持っていると思うが、生涯を通じたこの好奇心は、自分自身の喜びを超えてキャリアの上でも役立った。世界と未来について、意味ある対話に関わることを可能にしてくれたからだ。

 私の仕事が、比較的均一な組織である工学部から大学全体という非常に混成的な範囲に及ぶようになった頃、私が突然思い知ったのは、どれほど自分が無知かということだった。

 スタンフォード大学にはおよそ100にもおよぶ学部とプログラムがあり、その中には私が学部レベルほどにも理解していない分野も多くあった。

 すぐに私は読書量を2倍にし、重要に見えるが自分がほとんど知識を持たない数分野を探求した。科学者の私にとって、人文科学の核心について学ぶのは最大の挑戦だった。

 四十数年連れ添った妻はアーティスト家庭出身であり、自身もアーティストで、ビジュアルアートについて教えてくれた。

 また、私のフィクション好きがいくらか伝統的な文学への入り口を与えてくれたが、それでもやることはまだあった。『New York Review of Books』という、文学や歴史分野における重要な書籍を扱う批評雑誌も読み始めた。

 そこで取り上げられる本は、私がいつも読んでいるものよりも学術的だったが、目前に広がるタスクに備えるためには価値あるものだということがわかった。しかし、最も重要だったのは、リーダーシップという新しい役割に読書の焦点をあわせたことだった。

 私は長くリンカーンから多くを学んできたが、さらに視野を広げて、テディ・ルーズベルトやリンドン・ジョンソンたちをリーダーとして偉大にしたのは何かを学ぼうとした。ジョンソンには、特に興味を持った。

 彼の名誉はベトナム戦争によって汚されたものの、国内政策においては(おそらく直近ではフランクリン・ルーズベルトを除いて)最も優れた功績を残している。

 どのようにしてジョンソンがそれを成し遂げたのかを理解したかった私がその回答を得たのは、ロバート・カロ著の『Master of the Senate』だった。

 歴史や伝記を読むことで、私はいつも偉大な都市、国、文明の成り立ちを理解する喜びを感じてきた。今、その読書の対象を、リーダーシップや歴史的ブレイクスルー、歴史的惨事(特に回避可能だったもの)に向けた。

 偉大なリーダーたちの物語から、彼らの習慣を観察し、どんな性格が成功につながったのかを理解しようとし、危機に直面した際にどう備えようとしたのかを知り、成功と――さらにもっと重要なのは――失敗にどう対処しようとしたのかを学ぼうとした。

 身の回りにはリーダーシップについて話しあえる同僚がほとんどいなかったため、こうした過去の人物と「対話」できることに安堵と励ましを感じた。私とは比べものにならないほどの困難に直面しながら、彼らは生き抜いた(これにも安心した)。もちろん、1785年といったような時代にあった問題は、21世紀に翻訳する必要はある。

 それでも、何世紀も通して人間的な要素が――モチベーションや行動、意思決定に――一貫して見られることを知って、私は心地よい驚きを感じた。

 たとえば、物資も少なく訓練も行き届かない兵士たちを率いるジョージ・ワシントンが、あらゆる困難にもかかわらず、ずっと装備の整ったイギリス兵を相手に大きな成功を収めたのはなぜか?

 私が知ったのは、ワシントンのリーダーシップの性質と彼の戦略が決定的な役割を果たしたということだ。

 イギリスの制度において士官は紳士階級である一方、召集された兵士たちはそうではない。イギリス社会の階級システムをそのまま反映しているのだ。ワシントン自身は裕福な地主だったので、兵隊を同じような構造で組織することもできた。

 だが、彼は大陸軍の召集兵たちを一段下の人間としてではなく、同僚として扱うことを選んだ。

 もちろん、先頭に立ち命令を下すのは彼だ。それは言うまでもなかったが、兵士たちがまるでそこにいないかのように振る舞ったのか?

 あるいは彼らと同じテーブルに座ることを拒否したのか?

 答えはノーだ。だからこそ、この市民兵士たちはワシントンのために果てしない忠誠心を持って戦ったのである。

 文学、伝記、歴史は、困難を実際に体験することなく、重要な教訓を観察し学ぶことができる実験室のようなものである。失敗について読むことは、どうすれば間違いを回避できるのかや、失敗からどう立ち直るのかを教えてくれた。

 最も優れたリーダーたちはただ失敗を受け入れるだけではなく、その責任を負い、失敗を成功に転換させるために戦うのだ。

 ワシントンは、ロングアイランドとマンハッタンでの戦いに危うく敗れかけたものの、そこから回復した。

 リンカーンは、ジョージ・マクレランを解雇するまであまりに長く引っ張りすぎた。戦争を終わらせる機会を何度も逃した後に、やっと指揮官となるとは何かを学んだのである。

 ケネディはピッグス湾事件を長引かせ、ジョンソンはベトナム戦争に苦慮した。

 失敗から立ち上がるリーダーもいれば、そうでないリーダーもいる。それぞれを調べることで、私は学んだ。

 成功の冠を受け取るのは簡単だが、理想的にはあなたのために骨を折った人々も、あなた以上ではないにしても、同等にその名誉に値すると認めるのがいい。

 また、自分が過ちをおかし、間違いの責任は自分にあると認めるのは簡単ではない。ここで多くのリーダーたちが道を誤り、失敗を部下に押しつけようとする。

 他人のせいにするのは道徳的にも間違っているが、実際にリーダーとしての信頼を破壊することにもつながる。

(本原稿は、ジョン・L・ヘネシー著『スタンフォード大学名誉学長が教える 本物のリーダーが大切にすること』〈瀧口範子訳〉の内容を編集・加筆して掲載しています)