“シリコンバレーの生ける伝説”ジョン・L・ヘネシーをご存じだろうか? アルファベット(グーグルの親会社)の現会長、スタンフォード大学名誉学長という偉大な肩書きを持ちながら、コンピュータ科学分野の最高賞チューリング賞の受賞歴を誇る研究者でもある、ビジネスとアカデミックの世界を極め尽くした人物だ。そんな彼が、ナイキ創業者フィル・ナイトと「次世代のリーダー育成プログラム」を立ち上げるにあたって書籍『スタンフォード大学名誉学長が教える 本物のリーダーが大切にすること』を書き上げた。本書は、ビル・ゲイツから「あらゆるレベルのリーダーにとって不可欠な1冊」と激賞された他、シェリル・サンドバーグ(フェイスブックCOO)、サンダー・ピチャイ(グーグルCEO)など多くの著名人から絶賛を集め、2020年11月、待望の日本版が発売された。本連載では、本書からジョン・L・ヘネシーのメッセージをお伝えしていく。

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優れたチームと「心理的安全性」

 チームの成功のためにリーダーが目指すべきことは、協力的な振る舞いを自ら示すことに加えて、メンバーを正しく選び、チームの運営の基本ルールを定めることだ。

 これは見た目ほど単純には進まない。私は、1980年代にスタンフォード大学で始まったMIPSプロジェクトでそれを思い知った。

 我々の実験は、非常にシンプルな疑問から始まった。単一チップの中に完全なコンピュータをつくることは可能だが、それは、ミニコンピュータやメインフレームをただ真似する以外の方法でつくられるべきか?

 開発しようとしているのは、根本的に新しいことで、まだ実証されていないものだという認識のもとで、我々は学際的なチームを組んで、可能なすべてのシナリオを見定められるようにした。

 集積回路が設計できる人間、コンピュータの構成とアーキテクチャーを理解する人間、そしてコンパイラーやOSがわかる人間などだ。

 さらに、マイクロプロセッサやそのコアとなるソフトウェアが設計できるのは小さなチームでしかなかったので、独自のコンピュータ支援デザインツールをつくって、我々にレバレッジを与えてくれるような人物も必要としていた。

 チームのメンバーは私と数人の同僚教員で、彼らによってコンテキストや組織、そして特定の知識(たとえば、私は当初コンパイラーの専門家だった)や判断力がもたらされた。

 残りのメンバーは大学院生だ。キーとなるアイデアは彼らから来ると、我々は期待していた。学生たちは、学際的な方法で目新しいアプローチをとることを念頭に置いて、必要な機能はソフトウェアに置くかハードウェアに置くかを検討していた。

 まさに我々が求める、若く輝く頭脳を持ち、従来の知恵を再考し再発明しようとしていたのだ。彼らは自立した批判的な思想家だった。

 教員のメンバーは、実験のプロセスをつくるよう任命されていた。我々はまず問題についてブレーンストーミングすることから始め、チーム全員が関係資料を読み、検討に値するアイデアを出した。

 新しい方法が求められていたとは言え、アイデアが全くの無条件で良いということではなかった。

 もしそうならば、このプロセスには終わりがなくなる。現実と、なぜそれがうまくいきそうかという洞察によって、制限を受けていた。そうした境界を設定するのが、我々「古株」、つまり教員の仕事だ(当時、私は28歳だった)。

 ジェフ・ベゾスが独自のピザ2枚ルール(すべてのミーティングは、参加者の空腹を2枚のピザで満たすくらいのサイズに留めるべきだ)で捉えたように、少人数の非常に有能なチームはより効率的なものである。

 我々のチームもまさにそのタイプだった。高レベルで思考する結束の固いグループだ。

 加えて、最も生産的なチームは、そのスキルや視点、性格において最大の多様性を持つという調査結果がある。チームの結束を保ちながら、異種性をどう最大化にするのか? こうしたチームのリーダーにとっての究極の挑戦とは、これに尽きるのだ。

 我々のチームが学際的であることは、独自の挑戦も生んだ。異なった観点を持つ才能を一ヵ所に集める際には、どのメンバーにも均等に権限を与えなければならない。

 そうしないとチームは、同じ技術用語を共有する派閥に分裂してしまう。さらに、ひとつの領域出身のメンバーの肩書が他とは異なっていることで、領域間にヒエラルキーができてしまい、あるグループが他よりも意味ある貢献をしているととられてしまう。

 チーム内の競争は、一定の基本ルールによって回避できた。まず、私は何か偉大なことを成し遂げるという、同じゴールを皆で共有していることを確認した。

 それを偉大にするためには、そのすべての部分が優秀でなければならない。これが、チームメンバーすべての専門領域について基本的な尊敬を打ち立てた。

 さらに、革新的で学際的な思考を支えるために、ふたつ目の基本ルールをつくった。アイデアを頭から批判しないということだ。

 発想源に対する判断やアイデアに対する予断なしに、それを熟考し、評価するのだ。これらに3つ目の基本ルールを加えた。厳しい質問は許されるばかりか、必要であるということだ。

 問いは尊敬を持って発し、オープンな心で受け取ることによってのみ評価される。チームが何か重要なことを成し遂げようとしているのならば、アイデアは激しく、無慈悲とも言える挑戦を受けて立たなければならないのだ。

 そうした挑戦は、それを考案したメンバーに対してではなく、アイデアに向けられなければならない。これらが最後の基本ルールにつながった。

 チームメンバーには、互いに最大の尊敬を持って対する。つまるところ、チームに参加するのに十分な才能がなければ、そもそもここに招かれていないのだ。

 特に、最高級の個人からなるグループの場合、チームリーダーは、一番声が大きい人物が勝つという考えを押し潰さなければならない。

 それに代わり、個人批判や怒りを抑制し、思慮ある議論が起こるのを奨励するような仕事環境を育てなければならない。MIPSプロジェクトでは、教員のメンバーがそうした行いを自ら実践し、強化した。

 MIPSプロジェクトに参加し、さらに後にシリコンバレーで学んだ教訓は、スタンフォード大学の学長としての私に重要な習慣を与えてくれた。特にチームワークには、同じ基本ルールを用いている。

 新しいアイデアと厳しい問いを奨励する。議論のために問題を提起する人間を責めたことは一度もない。反対に、議論のテーブルに問題を出さなければ、そちらを非難するだろう。

 チームメンバーには、「ねえ、ジョン。それでは間違うよ」と安心して言えるようになってほしい。彼らには、遠慮なく発言することに対して臆さないでほしいのだ。