新興国で生まれる
将来のライバルとの決戦に備える

 リバース・イノベーションのサイクルは、これで完了したわけではなかった。P&Gは、まず「ガード」をプラットフォームとして用いて、中国やアフリカなど他の新興国市場向けに、低価格のカミソリを開発していった。

 世界の何十億人もの消費者のために、手頃な価格で使いやすい消費財を提供するという社会的利益に限ってしまえば、潜在市場の機会は小さく見える。だがこれに続いて、最終的にそれらの製品がアメリカをはじめとする先進国市場に導入され、既存のカミソリ事業を破壊して、リバース・イノベーションのプロセスが完了する可能性もある。

 そんなことは起こりそうもないと思うかもしれない。

 なぜP&Gは、ジレットのコア事業でカニバリゼーション(注)を起こすのか。それは、厳しい事実を受け入れる必要があるからだ。

 ジレットの牙城はいつか崩される。その破壊者が、これまでレーダーに映ってこなかった、全く異なるルールで戦う新興国市場のライバルである可能性は十分にある。

 そのようなライバルに先手を打ち、自社のイノベーション・プロセスを逆転させてはじめて、ジレットは次の百年も市場リーダーの座を守っていくことができる(ビジャイ・ゴビンダラジャン。この記事は、L.E.Kコンサルティングのジョン・R・モランとの共同執筆による)。

【訳注】
自社商品が市場で競合して、顧客や利益を食い合う現象のこと。

訳:渡部典子
“P&G Innovates on Razor-Thin Margins,” HBR Blog Network, April 16, 2012.
http://blogs.hbr.org/cs/2012/04/how_pg_innovates_on_razor_thin.html
(C) 2012 Harvard Business School Publishing Corporation.


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ISBN 978-4-478-021651

『リバース・イノベーション――新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき
ビジャイ・ゴビンダラジャン+クリス・トリンブル著 渡部典子訳 小林喜一郎解説
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これまで誰も提示したことのない戦略の新領域「リバース・イノベーション」の、世界で最初、かつ現時点で唯一の本です。「途上国で最初に生まれたイノベーションを先進国に逆流させる」という、従来の流れとまったく逆のコンセプトであり、時に大きな破壊力を生み出します。本書はリバース・イノベーションのインパクトとメカニズムをシンプルな理論と豊富な驚くべき企業事例で紹介しています。
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◆主要目次
【第1部】 リバース・イノベーションへの旅
  第1章 未来は自国から遠く離れた所にある
  第2章 リバース・イノベーションの5つの道
  第3章 マインドセットを転換する
  第4章 マネジメント・モデルを変えよ
【第2部】 リバース・イノベーションの挑戦者たち
  第5章 中国で小さな敵に翻弄されたロジテック
  第6章 P&Gらしからぬ方法で新興国市場を攻略する
  第7章 EMCのリバース・イノベーター育成戦略
  第8章 ディアのプライドを捨てた雪辱戦
  第9章 ハーマンが挑んだ技術重視の企業文化の壁
  第10章 インドで生まれて世界に広がったGEヘルスケアの携帯型心電計
  第11章 新製品提案の固定観念を変えたペプシコ
  第12章 先進国に一石を投じるパートナーズ・イン・ヘルスの医療モデル
  終章 必要なのは行動すること
  付録 リバース・イノベーションの実践ツール
       ネクスト・プラクティスを求めて