注目の戦略コンセプト、「リバース・イノベーション」の入門編の連載第3回。今回も世界的ベストセラーである『リバース・イノベーション』の著者で、コンセプトの生みの親でもあるビジャイ・ゴビンダラジャンによるコラムの翻訳です。消費財の世界的企業P&Gは、先進国での圧倒的シェアと高機能商品を持ちながら、インドでなぜ、どのように超低価格のリバース・イノベーションに取り組んだのかを語ります。

なぜP&Gのジレットは
インド市場を攻略できたのか

 あなたが今、アメリカにいるにしろ、インドにいるにしろ、今日のひげ剃りに使ったのは、ジレットのカミソリではないだろうか。

 プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のひげ剃り用のカミソリのブランドである「ジレット」のアメリカでの市場シェアは80%以上とも言われ、二番手のシック(Schick)を大きく引き離している。さらに驚くことに、ジレットは価格競争に走ることなく、このシェアを実現してきた。

ビジャイ・ゴビンダラジャン
Vijay Govindarajan
ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのアール C. ドーム1924教授。国際経営論担当。ゼネラル・エレクトリック(GE)で初の招聘教授兼チーフ・イノベーション・コンサルタントを務めた。世界で最も影響力のあるビジネス思想家ランキングThinkers50(2011年度)で3位、同時にブレークスルー・アイデア・アワードを受賞。

 ベストセラーの「フュージョン プログライド」は、最新かつ最高のカートリッジ構造を持つカミソリで、替え刃の小売価格は約4ドル。この価格でも、ジレットはことさら高い粗利率を設定しているわけではない(注)。

 ただし、この手の最高級品がほとんど売れない新興国市場では、事情が異なる。それでは、カミソリの消費量が世界最大規模のインドで、ジレットが50%以上のシェアを獲得しているのはなぜか。それも、「フュージョン プログライド」の3%に満たない価格の製品である。

 これは、進行中のリバース・イノベーションの絶好の事例と言えるだろう。だが、この物語はまだ始まったばかりである。

【訳注】
ジレットは本体価格を安価にして、伝統的に替え刃で儲ける戦略をとってきたことで有名である。