#ワークマン女子で
加盟店のストレスを減らす

楠木 ワークマンのヒットによって加盟店に変化はありますか。

土屋 駐車場が常にいっぱいになりました。プロ客のために、たえず駐車場を1台空けておきたいんです。

楠木 緊急時の対応ですか。

土屋 たとえば安全靴が壊れたといって昼間でも買いにきます。そこで今後はワークマンやワークマンプラスから滞留時間が長く、駐車場の利用時間の長い一般のお客様を大きな店に集めようとしています。

楠木 それが#ワークマン女子ですね。

土屋 当初は1店舗だけのコンセプトストアと位置づけていましたが、前評判が非常に高く、全国展開することにしました。
今後は作業服、作業用品を扱わない一般客向けだけの店舗の名称を「#ワークマン女子」に統一して、路面店を中心に10年間で400店舗を新規出店する見込です。
ワークマンとワークマンプラスは駐車場が満車になります。従来店は10台の駐車場が標準でしたが、#ワークマン女子は20~30台の駐車場を標準にします。

楠木 なるほど。

土屋 従来のワークマンは、職人さんなどのプロ客で繁盛していて、駐車場が常に満杯状態で、駐車時間の長い一般客を取り込む余地がまったくない店舗です。忙しくて従来の家族経営では手が回らなくなっている店舗も出てきました。これは大きな問題なんです。

楠木 加盟店の仕事がラクというのは、ワークマンの戦略ストーリーのなかで最重要な部分ですよ。

土屋 そこでこれらの店舗の近くに#ワークマン女子を出店することにしました。
一般客を吸収して、プロの固定客に駐車スペースを確保する必要があります。「女子」と名づけることで、プロ客向けではないことを明らかにしています。
加盟店オーナーは、近くにワークマンが出店したら「食い合い」になるのではと心配しますから。社員が加盟店オーナーに「近くに#ワークマン女子を出店します」と説明しても叱られることはないでしょう。

楠木 戦略ストーリーのロジックを組み上げるときに、誰もが「そうだよな」と思えることが大切。そうでなくては論理とはいえません。普通の人を念頭においているところが素晴らしいと思います。

(第9回へつづく)

楠木 建(くすのき・けん)
一橋ビジネススクール教授
専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。大学院での講義科目はStrategy。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師(1992)、同大学同学部助教授(1996)、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授(2000)を経て、2010年から現職。1964年東京都目黒区生まれ。著書として『逆・タイムマシン経営論』(2020、日経BP、杉浦泰との共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019、宝島社、山口周との共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)、Dynamics of Knowledge, Corporate Systems and Innovation(2010,Springer,共著)、Management of Technology and Innovation in Japan(2006、Springer、共著)、Hitotsubashi on Knowledge Management(2004,Wiley、共著)、『ビジネス・アーキテクチャ』(2001、有斐閣、共著)、『知識とイノベーション』(2001、東洋経済新報社、共著)、Managing Industrial Knowledge(2001、Sage、共著)、Japanese Management in the Low Growth Era: Between External Shocks and Internal Evolution(1999、Spinger、共著)、Technology and Innovation in Japan: Policy and Management for the Twenty-First Century(1998、Routledge、共著)、Innovation in Japan(1997、Oxford University Press、共著)などがある。「楠木建の頭の中」というオンライン・コミュニティで、そのときどきに考えたことや書評を毎日発信している。

土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。