日本航空の企業再生は、失われた15年を経てなお残された最大の政治的かつ産業的難題である。この問題の本質は、旧来型の発想で日航を救い続けることが国民の利益、国益に反しかねない点にある。この構造を解き明かして見たい。

 ある航空会社の社長経験者は、「航空会社の経営は、2つの因子で7割方決まる」と断言する。2つの重要因子とは、空港の発着枠と機種選定である。

 前者は、顧客数をほぼ決定してしまう。後者は、その巧拙が燃費効率、整備効率の大きな差を生む。例えば現在、全日本空輸はボーイング社の中型機を中心に標準化され、新しい機種が多い構成であるのに対し、日本航空は合併したこともあって機種は多様で、いったいに古い。この2つの因子が、売上と利益の水準を7割方決めてしまうのである。サービスや食事の質は決定的要因ではない。顧客の多数であるビジネスマンは多忙であり、要は空席があるかないかだからである。

 ただし、前者の決定権は、政治、行政が握っている。後者は、当事者の財務力と戦略性にかかっているが、「うまくやったとしても、効果が出るのは10年後」(社長経験者)である。この社長経験者の言に従えば、再建を迫られている日航の現経営陣が足元の業績回復になせる努力は、“残り3割”にしか及ばない。だがそれも、過剰な債務に縛られ、お家芸と揶揄される派閥抗争に8つの労働組合が入り乱れ、思うに任せないでいる。

 組合が強く、乱立している場合の問題は、2つある。第1に、それぞれの組合が敵対し、重要な問題であればあるほど面子をかけ、経営に圧力を高めてしまう。第2に、経営者が改革を進められない理由を組合のせいにしてしまう。例えば、実は管理職のポストを減らすことが嫌であるだけなのに、組合がリストラに反対していることに原因をすりかえる。かつてのカネボウがそうであった。