疑惑の東京五輪招致、まさに改革中

 IOC倫理規定ではコンサルタントの宣言項目が詳述され、署名が求められる。IOC委員への贈り物は金額に関係なく一切禁止されている。東京五輪招致の時点でこれが施行されていれば、果たして東京五輪招致が成功したかどうか疑わしい。五輪招致委員会(招致委)とコンサルティング契約した団体や個人の契約金の詳細が今年4月に明らかになり、私は正直その金額に驚いた。

 私自身、1998年の長野五輪の招致活動には精力的に携わったが、あくまでも日本オリンピック委員会(JOC)の職員として、招致委に出向している渉外特命参事の立場であり給与はJOCから出ているだけだった。同様の立場にいる者が東京五輪招致では、何千万円ももらっていた。「アジェンダ2020」にとって、まさに改革すべき対象が東京五輪の招致であったという自家撞着だ。

 その象徴的な出来事が、2019年6月に東京五輪2020の招致委理事長を務めた竹田恒和氏が、招致疑惑関連の不正を否定しながらも、JOC会長とIOC委員の役職を退いた一件である。招致当時、国際陸上競技連盟の会長であり、IOC委員でもあったラミン・ディアク氏に集票活動の見返りとして金品が渡ったのではないかという疑惑だ。50カ国以上を回り招致に貢献した竹田氏が、自らが招いた五輪をホストとして迎えることができなくなったのだが、彼は疑惑から東京五輪を守るためにスケープゴートにされたともいえる。

 一方、竹田氏の知己であり電通の元顧問の高橋治之氏には招致委から約9億円が支払われており、ラミン・ディアク氏に接触し、手土産を渡したことも認めているが、彼は組織委の理事を続けている。

 招致活動は本来、開催都市のある国や地域のNOCが指導して行うべき活動であると私は考える。長野五輪招致時にはその認識の下、それまでに築いた人脈を駆使して招致に当たった。

 自国もしくは自分の領域にある都市を立候補都市として選定する権利はNOCにあり、開催都市が初めて出合うオリンピックの世界にどのように対していくべきかを教えるのはNOCにしかできないことだ。日常からIOCはもちろん各国NOCとの親密な関係を築き、確固たるネットワークを作り、柔軟な外交が可能な体制を作っていれば、あえてコンサルタントを雇う必要はない。JOC主導の下に、東京都や日本政府が協力していく構図であれば、明らかに違った招致活動の展開があっただろう。

 竹田会長退任の後を受けたのは柔道五輪金メダリストの山下泰裕氏だ。アジア初のIOC委員で大日本体育協会を設立した嘉納治五郎の意思を継ぐ者でありたいという山下会長の言葉を信じたい。山下会長は20年1月にはIOC委員にも選ばれた。そして、JOC改革の期待がかかるところ、21年のJOC理事改選には競技団体枠を撤廃する案を出した。

 「JOC理事会は競技団体の立場で議論する場ではない。スポーツ界の発展のために議論する場にしたい」とは、かつて嘉納治五郎が吐いた言葉と同値である。

 1934年、時のスポーツ界が日本体育協会(体協)を競技連合にすべきか否かで大激論が起こった時、嘉納氏は「自分が体協を組織したのは、どこまでも国民体育を目的としたものである。いま諸君が競技連合に改造したいというなら、自分は直ちに別の体育協会をつくる」と言った。その精神が今のJOCにつながっている。

 山下会長には、さらにオリンピズムを学び、その視点から政府、都、組織委に堂々と意見を主張していくJOCをつくってもらいたい。