発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
今回は元料理人の借金玉さんが、料理まるでダメ太郎たちに贈る「巣ごもり年末年始特別版」。家にある余り物が、激烈に美味しいスープに変わります。(撮影:ないしま @naishima)
「ダシなんて水に材料を入れて沸かさない程度に加熱すりゃいいんだ、薄けりゃもっと継ぎ足せ、濃くて悪いことなんてない」
前回の記事でも言ったことですが、こういう話をすると、「嘘をつけ」と怒られることがあります。
料理にあまり馴染みがないみなさんにとって「ダシを取る」(専門用語ではダシを「引く」ですかね)という行為はハードルが高いのかもしれません。
そりゃあ、あなたが新宿で一番うまいラーメンを作ろうとしたら難しいです。
しかし、「美味しいダシ」ひいては「美味しいスープ」を作るのは簡単だ! 敢えてここはそう言い切らせていただきます。わからないならわからせてやる。
「黄金ダシ」はめちゃくちゃ簡単に作れる
そんなわけで、和食の基本となるいわゆる「黄金ダシ」の素材です。
西友で一番安い削り節と適当に用意した昆布。背後にいるのは今回の主役、電気ポット氏です。
こうです。
水はこんなもんかな。まぁ、薄かったら足せばいいし。昆布も本当に「バキっと折って放り込んだだけ」です。「表面をぬぐえ」とか「水で戻せ」とか、そんなめんどくせえこと家庭料理でやってられるかという話です。
85度設定で湯沸かしボタンをポン(ここで98度にしないのはちょっとコツ)。
そして30分放置。
人類の夢みたいな絵面になりましたね。ポットから美味しいダシが出てくる幸せ。
このダシポット、「ダシなんて簡単だ」アピールのためにやったんですが、85度設定がカツオブシの抽出温度とぴったりな上に蓋で密封されるので香りが逃げず、下手に鍋で取ったダシより美味しい…。
ちなみに、この使い方はメーカーが全く推奨していないもので、以前僕が「ポットでスープ作るとうまいぞ!」みたいな記事をバズらせた直後に製造元から「やめて」みたいな声明が出たりしました。僕は自己責任でやりますが、みなさんはやめておきましょう。そういう使い方は想定されてないので普通に壊れる可能性が高いです。僕はやるけど。
ダシなんてポットでも取れるくらい簡単、そういう理解は大切ですから。
鍋にダシ材入れて水入れて弱火にかけりゃいいんですよ。香り逃がしたくなければフタしましょう。
さて、美味しいダシが取れたところで何か作りましょう。
担当氏の冷蔵庫を漁ったらトマトが出てきたのでぶちこんでみるか。
ダシに適当に切っただけのトマトを放り込んで軽く煮ます。
煮加減はお好みですが、僕はこれくらい(5分くらいかな)煮てやった方がトマトの酸味がダシに出て美味しい気がします。最後に塩で味を調えます。
できた。映えを意識した三つ葉をあしらって完成です。
これがね、カツオと昆布の美味しいダシにトマトのさわやかな酸味が入って本当に美味しいんですよ。トマトの皮とか完全放置でOK。切ってブチ込んで煮て塩で調えるだけです。ダシさえあればなんでも美味しくなるということが理解できてきましたか?
「味の素」は悪者ではない
さて、前回の記事では「とにかくうまみさえ足せば大体うまい」というお話をさせていただきました。そして、「味の素でごまかしただけではないか?」という疑惑が生じていたかと思います。味の素、なぜか悪者にされがちないわゆる「化学調味料」ですが、僕はこれどのご家庭にも置いておくべき本当に便利なアイテムだと考えております。
この話を理解するには、和食の基本となる黄金ダシ(さっきポットの中にブチこまれたもの)がなぜ美味しいのかについて考える必要があります。
カツオブシにはイノシン酸と呼ばれるダシ成分が含まれています。昆布にはグルタミン酸が含まれています。これらは人間の味覚をうまいと感じさせる「うまみ」成分なのですが、合わさると相乗効果が出ます。イノシン酸とグルタミン酸を相乗させると7~8倍の強さになるとか。すごい。
細かい理屈は各自ググって深めてもらうとして、要するに昆布とカツオブシのうまみ成分をぶつけるとすごく美味しいわけですね。ちなみに、カツオブシのうまみ成分であるイノシン酸は肉や魚からも出ますし、昆布のうまみ成分であるグルタミン酸はトマトやタマネギにも含まれています。美味しい料理によくある組み合わせですよね。肉をトマトで煮込んでおけば大体美味しいじゃないですか。
昆布のうまみ成分をグルタミン酸ナトリウムの形で結晶化させたものが味の素です。こんなの便利に決まってますよね。あなたが肉を煮込んでみたけれど、なんとなく味が薄い。そういう時は味の素をちょっとだけ振りかけると美味しいのです。
味の素がなぜ便利かといえば、「余計な味がしないから」です。もちろん、グルタミン酸を加えるという意味では昆布でいいのですが、料理によっては昆布の海藻臭さが邪魔になってしまうことがあります。
逆に、味の素にも欠点はあります。グルタミン酸「ナトリウム」の形で結晶化させているので塩辛いのです。だから、美味しい料理を作るためにはこの二つを使い分ける必要があります。昆布の風味が入ってもいいが塩は欲しくない時は昆布を、塩気が増えてもいいが昆布臭さを避けたいときは味の素を。必要に応じて便利に使えばいいのです。「化学調味料は嫌だ」って理由で不必要に昆布臭い料理食わされたくないでしょう、誰だって。
ホットクック編:アホみたいな適当さでぶちこめ!!!
理屈パートが長くなってしまいました。そういうわけで、深いことを考えず美味しいダシを取ってみたいと思います。担当氏から「ホットクックを使ってくれ、最近買ったから」と言われたので使ってみましょう。初めて使いましたがこれ便利ですね、温度設定もできるし密封されるし。いいダシが取れそうだ。
まずはニボシでも入れますか。最近ラーメン業界では異常な量のニボシを使ったラーメンが流行っていますね。頭とはらわたを取ってない? そんなめんどくさいことを僕がするわけないでしょ、味のうちですよ。まぁ、すっごく上品なニボシダシが取りたい人はやればいいんじゃないですかね。僕はニボシの香りがブワっとするのが好きです。
ニボシのイノシン酸にはもちろん昆布のグルタミン酸。ぶちこみましょう。
カツオをバサっと入れて、仕上げに干しシイタケを2個ほど。椎茸にはグアニル酸といううまみ成分が含まれていて、これがまたうまいんだ。
「干しシイタケって水でダシ取るんじゃないの?」という常識あるあなたにですが、これは干しシイタケの量が多い場合苦味が出たりするからですね。逆にこういう「ちょっと干しシイタケでダシにアクセントつけたい」みたいな時ならそのままぶちこんじゃってOKです。「めちゃくちゃ濃くてクリアな干しシイタケダシが取りたい」みたいな時は水に漬け込んでください。僕の経験上、いきなり煮ても結構大丈夫です。ダメだったらそれはそれで経験ですよ。
お水をザバっと入れて…。
低温調理モード(※メニューから「手動で作る」→「低温調理」を選択)、85度で1時間くらいかな。雰囲気でやってます、料理なんて大体雰囲気でやるもんですよ。大丈夫、この素材ならどうやってもうまい。
ホットクックが自宅にない場合は、鍋のフタをしてごくごく弱い火にかけましょう。大丈夫、僕も持っていません。便利だなこれ。メーカーさん、20リットルくらい加熱できる特大サイズ発売してくれないかな。
できた!
これは本当にいい出来ですね。ダシの香りが逃げてない。
このまま塩だけ入れて飲んでもとてもうまい。カツオとニボシの強いうまみと香り、そこにふんわりと椎茸の香りが絡んでいる。下支えの昆布もばっちり効いてますね。このままゴクゴク飲んでしまいたいところですが、次回はこの適当ダシを使った美味しい鍋料理の例と、「究極のスープ」についてお話させていただきます。
こちら、次回予告画像になります。
追伸 シャープさんへ
ところで、初めてホットクックを使ってみて思ったのですが、これ佛跳牆(ぶっちょうしょう、フォーティャオチァン:異常な高級食材をツボに入れて蒸して作る中華の最高級スープ、油断するとすぐ自動車みたいな値段になる)作るのにめちゃくちゃ便利じゃないですか? ツボに入れて密封するのは香りを逃さないためですし、ツボごと蒸すのは温度を低めに保つためです。ホットクックの性能が最大限生きる料理じゃないですか!
ポケットマネーでやるのは無理ですが、メーカーさんが協賛してくれればやれます。
いつでも企画のご提案お待ちしています。むかしから一回くらい佛跳牆作ってみたいと思ってたんですよ。ホットクックの販促にいかがでしょうか。