ROAは資産運用の巧拙を見抜くと同時に、
資金の運用の巧拙も見抜ける
カノン ROAで経営者の能力がわかる、という意味が腑に落ちないんですけど。もう少し噛み砕いて説明していただけませんか?
林教授 こう考えたらどうだろう。ここにA社とB社の経営者がいるとしよう。A社の資産は10億円で利益は1億円だ。一方、B社の資産は100億円で利益は同じ1億円とする。では、どちらがお金を有効に使っていると思うかね?
カノン それはA社です。だってA社の社長はB社の10分の1のお金で、同じ額の利益を出しているからです。
林教授 そうだね。君は無意識にROAを計算したのだよ。つまりA社のROAは10%であるのに対して、B社のROAはわずか1%に過ぎないとね。損益計算書を見ただけでは、効率的な経営を行っているかはわからない。
カノン でも、利益が1億円で資産に運用した資金が10億円と100億円ならROAを知らなくたって直感でわかりますよね。
林教授 では、こちらはどうだろう。C社の利益が12億円、D社は利益9億円だったとしよう。どちらの会社が効率的な経営をしているだろうか。
カノン それはC社です。だって、利益が3億円も多いですから。
林教授 多くの経営者も君と同じように考える。売上と利益しか関心のない君のお父さんも間違いなくC社と答えるだろうね。
カノン ということは?
林教授 ROAは資産運用の巧拙を見抜く指標であると同時に、資金の運用の巧拙も見抜けるんだ。大切な点は、どれだけの資金を運用したかだ。仮に、C社とD社の総資産を119億円と79億円としたらROAはいくらになるかな?
カノン C社は10.0%(12÷119)で、D社は11.4%(9÷79)です。D社の方がお金を効率的に使っていることになりますね。
林教授 その通り。D社はC社より利益が少ないのに、お金の使い方は優っているということだ。このようにROA比率を使えば客観的にどちらが優れているかが分かる。
公認会計士、税理士
明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。