TSMCに生産を委託することで
変化への対応力を高めた米IT先端企業
インテルと対照的に、「設計・開発」に注力してきた米NVIDIAは、TSMCとの関係を重視し、微細かつ高機能なチップを生み出した。昨年7月にNVIDIAの時価総額がインテルを上回った理由は、両社の成長期待の差が拡大したからだ。NVIDIAは英Armの買収によって設計・開発力にさらなる磨きをかけようとしている。また、グーグルやアップル、マイクロソフトが、自社での半導体の設計や開発を強化している。
TSMCは、最先端から既存分野まで総合的な生産ラインを確立し、各企業のニーズに的確に応える生産体制を整えた。TSMCに生産を委託することによって、米IT先端企業は知識集約的な半導体の設計・開発体制を強化し、変化への対応力を高めることができる。そうした発想がファブレス化を勢いづけた。
なお、韓国のサムスン電子は、どちらかといえば「設計・開発」から受託事業を含む「生産」までの統合を重視しているようだ。
いずれにせよ、世界経済が「データの世紀」を迎える中、米国が世界の覇権を維持するために、TSMCの重要性は高まっている。
中国の半導体製造技術は米国依存
SMICは米国の制裁にどう対応するか?
一方で中国のSMICの製造能力は、台湾のTSMCに比べて3世代ほど遅れているといわれている。
半導体の自給率向上を目指す中国共産党政権にとって、SMICは欠かせない企業だ。しかし、中国の半導体の製造技術というのは、米国に依存している現状がある。
昨年9月のファーウェイへの制裁に加えて、12月に米国がSMICを事実上の禁輸対象に指定したのは、製造技術面での中国の弱みをたたき、IT先端分野を中心とする覇権強化を阻止するためだ。
一部では米商務省のSMIC制裁には抜け穴があるとの指摘があるが、主要先進国の企業は制裁違反を避けるために、中国向けの半導体および関連部材などの輸出に慎重にならざるを得ない。短期的に、中国の半導体自給率向上への取り組みは鈍化するだろう。
注目されるのが、SMICが米国の制裁にどう対応するかである。米国が制裁を強化する中にあっても、SMICは政府系ファンドと連携して工場の新設に取り組んでいる。また、SMICは4人からなる経営陣のうち3人をTSMCなどの台湾半導体産業出身のプロで固め、微細化をはじめとする生産能力の向上に取り組む意向だ。
中長期的に考えた場合、共産党政権は多種多様な方法を用いてSMICの総合的な生産能力の向上に取り組むはずだ。事実、共産党政権は、企業への補助金や土地の提供、海外企業からの技術移転、人材獲得などによって、半導体の開発力を高めた。それが、フィンテックやドローン、軍事関連技術の高度化など中国の覇権強化を支えた。時間がかかったとしても、中国はSMICの生産能力向上をあきらめないだろう。
現時点で、製造技術で米国に一日の長があることは確かだ。しかし、中国経済のダイナミズムを支える「アニマルスピリッツ」や、テクノクラート(技術官僚)の政策運営力を基に考えると、米国が半導体分野における中国の技術革新を食い止めることは容易ではない。短期的に厳しい状況に直面したとしても、中長期的には、世界経済における中国の半導体産業の重要性は高まる可能性がある。