ポストコロナに激化する新・半導体戦争。キープレーヤーの一つが、世界最大の半導体工場を持つ台湾企業、TSMCだ。この巨大企業が発表した米アリゾナ州での新工場建設計画は、半導体産業のモノとカネの流れが大きく変わる時代の「歴史的事件」になりそうだ。特集『半導体の地政学』(全8回)の#2では、TSMCの米国投資の深層を読み解く。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)
「半導体で世界の中心をつかむ」
台湾総統の宣言の深層は
「台湾がこれから4年間向き合うのは、世界経済のより激しい変動とサプライチェーンが再編されていく局面だ。(中略)半導体とIT産業での強みを生かし、世界のサプライチェーンにおける中心的な地位を全力でつかみ取る」――。5月20日、台湾の蔡英文総統は2期目の就任演説でこう語った。この言葉こそが、直前に起こった半導体産業の「大事件」の深層を示唆している。
演説の前週の15日、半導体受託生産の世界最大手である台湾TSMC(台湾積体電路製造)が、米国では2つ目となる新工場を建設する意向を明らかにした。「米国政府がTSMCに工場新設を求めている」との報道が半年来続いていたが、それが現実となった。また計画発表とほぼ同日に、米商務省は中国の通信設備大手、ファーウェイ(華為技術)への追加制裁を発表。こちらもTSMCに関連があり、ファーウェイに対し半導体を供給できなくなる内容だった。
米トランプ政権はTSMCに巨額の投資をねだっておきながら、大口顧客との取引を妨害するというのか。他国の民間企業の命運をかくも左右するとは、大国の傲慢(ごうまん)ここに極まれり――そんな風にこの大事件を理解するのは皮相的だ。
TSMCは米国新工場計画について公式には、「あくまで意向段階でしかなく、最終決定には至っていない。今後慎重に検討を重ねる」(パブリック・リレーション部のニナ・カオ氏)としており、まるで「強いられて渋々と」の消極姿勢。だがその実、TSMCは冷静にそろばんをはじき、極めて合理的な判断で建設に動き出している。