「持論」人事はなぜNGなのか?
前ページにも書いたように、経営者やリーダーの中には、人を見る目に自信を持っている人は多いと思います。「五分もあれば人なんて分かる」「こういう人はだめだ」「こうすれば人は動く」などと言った、人や組織のマネジメントに関する「持論」を持っている人です。
はっきり言うと、このような「持論」の多くは、どんな時代背景においても、普遍的に通用するような「理論」ではないことがほとんどで、環境が変われば通用しなくなってしまうようなものです。
しかし、この権力者の「持論」を人事が覆すのは至難の業です。もともと、人や組織の世界は、人の心や性格や能力、組織の文化、風土など、曖昧で見えないものを扱うことも多いため、間違った「持論」であっても、明示的に反論をすることは難しい。だからと言って、権力者に簡単に迎合してしまって、彼らの「持論」を鵜呑みにする「ガキの使い」的人事になってしまうと、当然ながら様々な問題が生じます。
例えば採用において、経営者や現場は即戦力を求めるあまり、求める人材要件を沢山挙げます。
「四年大学卒、実務経験3年以上、パソコンスキルは堪能でコミュニケーション能力も問題なくあり、できれば業界の知識まで備えている――」
求人情報サイトなどを見ているとこのようにずらっと並んでいるのが「人材要件」です。明示的でなくても、学歴はこれ以上、性別はこちらの方がよい、年齢は何歳まで、転職経験は何回まで、キャリアのブランクはNG・・・等々、これまでの過去の何例かの事例を見て、こういった採用時の条件を「持論」として持っているわけです。
レッドオーシャン人事は良いことなし
それぞれの企業ごとの採用条件には根拠の薄弱なものもあるでしょうし、入社後に育成可能な要件もあるはずです。それなのに、これまでの経験を過剰に重視して、「確実に活躍しそうな人材」を求めるあまり採用基準にMUST項目を増やしてしまうことがままあります。
そして、それは採用する企業にとっては実はよいことではありません。どんな企業でも欲しがる「目に見えるスペックを持っている人材」を採りあう「レッドオーシャン」で採用活動をすることになってしまうからです。
このような採用をすると、どうなるでしょうか?レッドオーシャンの市場での採用は、過当競争に参加する結果、求める人材は他社へ渡り、自社の採用力以下の人材しか採れない可能性が高まってしまいます。これでは企業としても本末転倒です。
それに、就職する側から見ても、本当は潜在能力のある人も、企業の設定するMUST項目を満たせなければ企業から見出されることなく、その可能性が摘まれてしまいます。その結果、「一度新卒で入った業界や職種から抜け出せず、新しいキャリアにチャレンジする可能性が低い日本」になりつつあるのではないかと思います。
採用という比較的わかりやすい場面においても、持論が横行する人事。では、企業や人事部はどのように「バージョンアップ」すればよいのか?それを次回は見ていきましょう。