NECの「グローバル変革」を牽引する、女性リーダーのメンターシップ

個人とチームが変化を創り出し、その力を伸ばし続ける組織はメンタリングとコーチングが機能している。これは、「学習する組織」の考え方と手法を確立したアメリカの経営学者、ピーター・センゲがイノベーションを実現するための要素として提示した「5つのディシプリン」のキーコンセプトでもある。その実践のプロセスについて、NECでグローバル組織への変革を牽引するグローバルビジネスユニットCFOの青山朝子さんに聞いた。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

CEOとCHRO、CFOの連携が企業経営を変える

日置圭介 青山さんは大学在学中に公認会計士の資格を取り、監査法人でキャリアをスタートしてから投資銀行、コカ・コーラを経て、NECのグローバルビジネスユニットのCFOに就任されましたが、途端にコロナ禍という想定外の事態が続くなかで、グローバルのファイナンス組織をどのように統括されているのですか。

青山朝子 NECで私がすべきことは明確です。私のミッションは、グローバル変革を実現する人材を発掘して、育成し続けること。それってCFOの仕事なの?と思われるかもしれませんが、日置さんたちも『ワールドクラスの経営』でお書きになっているように、CEOとCHROとCFOが連携しないと企業変革は実現しません。

青山朝子青山朝子(あおやま・あさこ)
NEC グローバルファイナンス本部長(NEC Corporation, Global Business Unit VP & CFO)

監査法人トーマツ、メリルリンチ日本証券投資銀行部門を経て、2004年に日本コカ・コーラに入社。財務本部、経営戦略本部を担当後、M&Aを推進する部門を立ち上げた。その後、東京コカ・コーラボトリング(現コカ・コーラ ボトラーズジャパン)の取締役 CFOとしてファイナンス全般を統括し、日本のコカ・コーラビジネスにおいて初の女性取締役として活躍。2度の上場企業のM&Aと統合を通じ、会計・財務・戦略の専門家として、伝統的な経理組織をグローバル標準のファイナンス組織へと変革、日本のコカ・コーラビジネスでボトラーの再編をリードした。

 NECはグローバル企業として勝ち残るために、2018年に執行役員副社長グローバルビジネスユニット長として、GEジャパンを率いてきた熊谷昭彦を招聘しました。熊谷はまず信頼できるグローバル人事のヘッドを採用し、その後、ファイナンスもグローバルでリードできる人間が必要ということで私が加わりました。元GEの熊谷はCEO、CHRO、CFOの3つの連携の重要性を理解しています。

 私は2020年1月に入社しました。そこから3カ月間は、新しい組織でのネットワークづくりに注力したのですが、海外スタッフとのコミュニケーションは限定的でした。もちろん各国からのレポートを見ながらWeb会議もしましたが、4月から海外拠点を周る計画でしたのでいまは限定的でもいいかな、と思っていたんです。ところが、準備期間を経ていよいよグローバル組織への変革へと本格的に動き出すという段で緊急事態宣言です。人生は思い通りにはいきません(笑)。

 APAC、中国、欧州、北南米、オセアニア、中近東、アフリカなど40カ国の拠点、そして昨年12月にNECグループに加わったスイス・Avaloq社のファイナンス組織とCFO18人を統括しているので、とにかくこの18人と毎月30分のWeb会議をしています。彼らにとって日本の本社は遠い存在で、情報共有といっても従来は一方通行だったのですが、双方向コミュニケーションのためのWeb会議30分という時間がグローバル組織の一員であることを自覚させたようです。直談判をする案件とメールで済む案件を選別するようになりましたし、コロナ禍でもスピードアップしているのはメンバーのセルフマネジメント力が高くなったからです。

日置 まさしくメンターシップですね。グローバル人材の育成には不可欠な要件ですが、青山さんの前職、コカ・コーラでのご経験が生かされているようです。

青山 コカ・コーラ時代を振り返ると、外国人の良いメンターに巡り会うことができたと感謝しています。当時、コカ・コーラのボトラー会社は日本国内で13社に分かれていました。それらを経営統合するたびに大変革です。統合のプロセスは複雑で困難の連続でしたが、統合して競争力を高めないと生き残ることはできないという危機感が、壁を乗り越える屈強さを植え付けてくれたようです。