企業内「専門家集団」がビジネス機会を最大化させる【日本企業がグローバルで戦えない理由(5)】

グローバルマネジメント=グローバルリスクマネジメントと言っても過言ではないほど、グローバル経営は様々なリスクにさらされている。企業価値を守るのみならず、ビジネス機会を手にするためには法務の力が欠かせないことを、グローバルプレーヤーは熟知している。企業法務に革命を起こしたとされるゼネラル・エレクトリック(GE)や、世界有数のグローバル法律事務所でキャリアを積んだ後藤康淑氏に、世界基準の法務について聞く。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

法務はビジネスのパートナー

日置圭介 ワールドクラスでは、ファイナンス(財務)やHR(人事)と並んで、リーガル(法務)をコーポレートの主要な機能と位置づけています(下図参照)。そして、GC(ジェネラル・カウンセル)やCLO(チーフ・リーガル・オフィサー)と呼ばれる法務のトップは、CEOに直接レポートする立場にあって、ビジネスにも強い影響力を持っています。

 しかし、日本企業のほとんどの法務担当役員にはそこまでの法的なバックグラウンドはなく、法務部門も契約書のチェックが主な仕事だと思われている。これは、コンプライアンスの側面からはもちろん、ビジネスにとっても大きな損失です。

後藤康淑後藤康淑(ごとう・やすよし)
マレリ グループGC兼チーフ・コンプライアンス・オフィサー

中央大学法学部卒業、コロンビア・ロースクール 修了 (LL.M.)。ベーカー&マッケンジー、GE等を経て、2020年より現職。

後藤康淑 本当にそう思います。GCがどれくらい経営の中枢に関与しているか、独禁法を例にお話ししましょう。ワールドクラスではGC抜きに、競合企業のトップ同士が秘密裏に会談することはありません。

 何の目的で何を話すのかについて事前にGCと打ち合わせるのは当然ですし、GCまたはその部下がその場に必ず同席し、当初の予定とは異なる話題、その意図はなくても、たとえば競争を制限するような会話をしたという外観が生まれそうなとときにはその場で軌道修正する役割を果たします。会談の目的にもよりますが、そもそも会うこと自体をやめるようにGCが示唆することもあり得ますし、それにもかかわらず会談を強行するようなCEOは考えられません。

日置 コンプライアンスに限らずビジネスに関しても、GCは強い発言権を持っていますね。

後藤 はい。GCの発言によってプロジェクトが中止になることもありえますし、逆に、ここまでならリスクが取れるのでこういうやり方に変えればこのプロジェクトをすすめることができる、というコメントをした結果、プロジェクトの内容が変更されることもあります。ワールドクラスの法務は、ビジネスパートナーとしてCEOから頼りにされる存在です。

 

日置 日本でも海外との仕事が増えて契約関係が複雑になるにつれて、ビジネスサイドの意識も少しずつ変わってきています。実際に痛い目にあうことも少なくなく、法律の力や怖さをこれまで以上に実感しているはずです。

 ただ、交渉の段階で企業内弁護士を同席させるという発想がなかったり、法務の方にもそれに応えるだけだったりと、体制が整っていません。世界基準の法務の体制はどういうものか、いつ、どんな場面でどのように振る舞えばいいのかを、経営層も含めてまだイメージができていないようです。

後藤 法務に限らず、日本では人事や経理などのいわゆるコーポレート部門は、「間接部門」などと呼ばれ舞台裏で受動的に仕事をする人たちのように扱われがちですよね。仮に中途採用する場合も、そのような考えに基づいてそれに見合った人を採用することになります。

 これに対して、ワールドクラスの企業では、人事、ファイナンス、法務は、きわめて戦略的な3部門であり、その長であるCHRO、CFO、CLO/GCは、それに見合う、戦略的な、能動的な仕事ができる人をしばしば外部から、同等またはそれを上回る報酬その他の条件で採用するので、その結果、その人たちは、社内で最もコンペンセーションが高い層の人たちとなることが珍しくありません。

 ビジネスでは負けていないのに、総合的な競争力で世界に遅れをとってしまうのは、そういうところにも一因があるのではないでしょうか。