続いて指摘するのは、値下げする理由がJR側にないことだ。よく知られている通り、JR各社は20年4月からの外出自粛の影響を受け、過去最大の赤字に陥っている。4~9月期連結決算において、JR東日本で48.2%、JR東海で64.6%、JR西日本で48.8%、JR九州で41.5%の売り上げ減となった(前年同月比)。これら上場4社のみならず、北海道、四国のJR各社にいたっては壊滅状態だという。
「とくにJR東海の場合、2019年3月期の売り上げをみると、在来線が1048億円なのに対し、新幹線は1兆2918億円と、けたが違います。JR各社としては今コロナで赤字を抱える上に、ドル箱路線である新幹線を値引きすると、ますます赤字に拍車がかかり、会社の運営を崩してしまうことになります」
JRが新幹線の値段を変えられないなら、いっそ格安航空会社(LCC)のように、JRよりも安く運営できる会社が進出すれば、新幹線でも価格競争が起きるのではないかという指摘もあるが。
「それはかなり難しいと思います。確かにヨーロッパの高速鉄道は、ほかの交通機関との競争が強く意識されているため、かなり安く買えます。ところが、正規の運賃ベースで比較すると日本と同じか高いくらいです。また、ヨーロッパの路線は『下』の線路を政府が所持して、その『上』を走る車両は複数の鉄道会社がそれぞれ所有する、いわゆる『上下分離』方式を取っています。それなら価格を安くすることは可能ですが、それをそのまま日本の鉄道に導入したら、おそらく今よりも不便になってしまいます」
というのも、日本の新幹線はピーク時には3分30秒間隔で発車し、かなり正確なダイヤで運行している。そこに他社の高速車両が交じると、混乱するうえに事故のもとにもなりかねないというのだ。それに比べてヨーロッパの高速鉄道は20~30分間隔で、ダイヤの乱れは当たり前。また、比較的平坦な場所が多いヨーロッパの路線に比べて、日本の新幹線の路線はカーブやトンネルも多く、高架上や都市部での細かい速度制限もあるし、地震や風雨など自然条件も厳しいため、線路の整備も慎重に行わなければならない。1社だけで管理した方が安全に運行できるのだ。
「それから、JR側は、地方の利用者が少ない赤字路線も担っている代わりにボーナスとして新幹線も運行している面もあるので、新幹線というドル箱に他企業がガッついてくるとJRとしては『利益を生む新幹線に食いつくなら、ぜひ私たちが抱える赤字路線の負債も引き受けてほしい』と抵抗することも考えられます」