政府・民間一丸となって
命を守る医療システムを構築すべき

 日本には集中治療専門医や呼吸器内科専門医、感染症専門医や集中治療を行っている看護師らがそんなにたくさんいるわけではないので、「キャパシティの拡大は無理だ」という声もよく聞く。

 私自身が集中治療専門医であり、言わんとすることは非常に理解できる。しかし、今は量的拡大をテーマにしており、質的には若干劣ることを覚悟せねばならない。人工呼吸器が必要なタイミングで装着できず、多くの犠牲者が出た2020年春のニューヨーク市民のことを忘れずにいたい。

 救命に関しては、たとえ質が落ちてもある程度の量を確保することは災害時には当然で、今も世界各国で行われている(2021年1月25日時点で、日本のおよそ半分の人口の英国で4000人の患者が、新型コロナウイルス感染症で人工呼吸器を装着しているという。同日の日本の重症患者数はおよそ1000人である)。

 ただし、これにも方法論はある。欧米では災害医療の際には2層式のスタッフ体制を組むことが多くの報告書に書かれている。つまり、例えば、集中治療専門医の下に他の診療科の医師にお手伝いいただき、できるだけ診療の質を落とさないようにするのである。看護師も同様である。そういった方法論も災害医療の専門家たちは世界中で検討してきた。

 多くの日本の医療機関で集中治療専門医や呼吸器内科専門医、感染症専門医、共に従事する看護師、准看護師、看護助手らが、過労の中で働いているという話を聞く。もちろん、それ以外の診療科の医師や看護師らも過労である旨、報道されている。これも含めて、医療資源の適正配分が行われているかを総点検する必要がある。

 自分自身が現場で働いているので、彼らの苦しさは痛いほど分かる。しかし、先に述べたように、個別の現場が頑張っていることと、全体の差配ができているかは、別の問題である。むしろ、全体のシステム(各病院、各都道府県で完結するものではない)がうまく機能していないからこそ、過労になっていると考えられる。

 過労は断じて避けるべきだ。持続可能性がないからである。

 日本の医療・介護の規模は年間60兆円といわれる。日本のGDPの10%以上を充てている。これだけの規模がありながら、今の患者数で人びとの命を守れないとすれば、それは人びとへの背信行為だろう。今こそ、災害医療の知見も用いて、政府・民間一丸となって、一刻も早く命を守る医療システムを構築すべきである。既に状況は悪化の一途をたどっているのであるから。

◎山本尚範(やまもと・たかのり)
名古屋大学大学院医学系研究科救急集中治療医学分野医局長。大阪市立大学医学部医学科卒、名大病院で麻酔と外科系集中治療に従事した後、2013年、日本初の市民病院合併の中東遠総合医療センターの救命救急センター立ち上げに尽力した。救急専門医、集中治療専門医。現在は名大病院で救急・集中治療に従事している。

【参考先URL】
1, Richardson S, Hirsch JS, Narasimhan M, et al. Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area. JAMA. 2020;323(20):2052–2059. doi:10.1001/jama.2020.6775
2, American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
Case Fatality Rates for COVID-19 Patients Requiring Invasive Mechanical Ventilation: A Meta-Analysis
Am J Respir Crit Care Med 2020 Oct 29;[EPub Ahead of Print], ZJ Lim, A Subramaniam, MP Reddy, G Blecher, U Kadam, A Afroz, B Billah, S Aswin, M Kubicki, F Bilotta, JR Curtis, F Rubulotta
3, Dexamethasone in hospitalized patients with covid-19 — preliminary report. N Engl J Med. 2020. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2021436. doi: 10.1056/NEJMoa2021436.
4, Beigel JH, Tomashek KM, Dodd LE, et al. Remdesivir for the treatment of covid-19 — final report. N Engl J Med. 2020;383(19):1813-1826. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2007764. doi: 10.1056/NEJMoa2007764.
5, 平成29年度病床機能報告 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/open_data_00002.html
6, SCCM | united states resource availability for COVID-19. Society of Critical Care Medicine (SCCM) Web site. https://sccm.org/Blog/March-2020/United-States-Resource-Availability-for-COVID-19. Accessed Dec 21, 2020.

7, NHS hospital bed numbers. The King's Fund Web site. https://www.kingsfund.org.uk/publications/nhs-hospital-bed-numbers. Updated 2020. Accessed Dec 21, 2020.
8, https://www.mhlw.go.jp/content/000664798.pdf
9, https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000179719.pdf 診調組 入-2 29.10.5 (平成29年度第9回) 入院医療等の調査・評価分科会
10, https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000185955.pdf 中医協 総-3 29.11.24 入院医療(その7) 平成29年11月24日 
11, Health equipment - hospital beds - OECD data. theOECD Web site. http://data.oecd.org/healtheqt/hospital-beds.htm. Accessed Dec 31, 2020.
12, https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000164341.html 第4回地域医療構想に関するWG 平成29年5月10日 資料2平成28年度病床機能報告の結果について 
13, Health resources - nurses - OECD data. theOECD Web site. http://data.oecd.org/healthres/nurses.htm. Accessed Jan 8, 2021.
14, https://www.jsicm.org/news/upload/jsicm_info_ventilator_200514.pdf 国内の病院における人工呼吸器等の取扱台数推計値
15, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210114/k10012813041000.html
16, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210114/k10012814121000.html
17, 今後を見据えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について https://www.mhlw.go.jp/content/000664779.pdf
18, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00023.html
19, 令和元(2019)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/19/dl/09gaikyo01.pdf