日本は、欧米に比べ新型コロナ感染者が圧倒的に少なく、病床数が世界一であるにもかかわらず、医療崩壊の危機に直面している。今の医療体制を変えていくには、今後は医学界のさまざまな分野の重鎮を集め、オールジャパンで新型コロナ重症者の病床の確保を決定することを、私は提案したい。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
大胆に医療体制を変えられないのはなぜか
前回、私は医療体制の本質的な問題は「自民党厚労族」が主導して解決していくべきだと主張した。今回は、自民党厚労族を中心に医療崩壊を防ぐ体制を構築するための具体的な「政治的仕掛け」を考える。
現在、新型コロナ対策を審議している「分科会」は、医学者や医師だけでなく、経済学者などもメンバーに含まれている。医学的な見地だけでなく経済学的や政治学的な見地など多面的な視点で審議を行うことが狙いだ(第246回)。
ただ、もちろん、審議のベースとなるのは、医学的見地だ。だから新型コロナウイルス感染症対策分科会の構成員20人中、医師、医学者が9名を占めている。だが、保健学が専門の武藤香織東京大学医科学研究所教授、小児科医の釜萢敏日本医師会常任理事、太田圭洋 一般社団法人日本医療法人協会副会長を除けば、感染症の専門家しか入っていない(参照:第21回 新型コロナウイルス感染症対策分科会)。
会議資料・議事録等を確認すると、議論の内容は、感染拡大の状況分析と対応が中心であり、そのほかにはワクチンが開発された場合の接種の方法、リスクコミュニケーション、Go Toトラベル、若者への呼びかけ、検査体制などだ。そして、毎回のように全国の医療提供体制の逼迫した状況が報告されているが、「だから感染拡大を防がなければならない」というような議論にとどまっている(内閣官房HPより参照)。
第15回会議(11月12日)以降、「第3波」の拡大に対して「分科会から政府への提言」が行われるが、「情報発信の強化」(第15回)、「GO TOトラベル事業の運用見直し」「営業時間の短縮」「人々の行動変容の浸透」など「これまでより強い対策」(第16回)、「現在の感染拡大を鎮静化させるための提言」(第17回)、と感染拡大防止のための提言が続く。第18回になって「医療機関と保健所の負荷への対応」として、「特に重症者が多くなる地域に対して関連学会と連携した専門医派遣」という文言が出てくる。
第20回(1月5日)に「緊急事態宣言についての提言」が行われたが、重症医療の病床確保のための体制確立についての言及はない。第22回(1月15日)にようやく「感染症法」の改正に関して「医療提供体制の課題」が提起された。
このように、「分科会」において、医療体制の問題はほとんど議論されてこなかったといえる。それは、感染症以外の疾病の専門家が会議にほとんど入っていなかったからではないだろうか。
もちろん、新型コロナ対策に積極的な発言を続けてきた中川俊男日本医師会会長など、新型コロナ対策に協力したい意思がある、感染症以外の疾病の医師、団体等は多いと思う。だが、分科会にその意思を伝えて、その意思決定に反映していくルートが極めて細かったといえるかもしれない。
また、厚労省側で新型コロナ対策に取り組むのは、厚労省・健康局結核感染症課の医系技官と、厚生科学審議会・感染症部会に招集される「感染症の専門家」だ(第242回・p3)。官僚組織は、いわゆる「縦割り行政」の縛りが厳しいため、他の疾病を管轄する部署は、新型コロナ対策にほとんどかかわっていないと考えられる。
要するに、新型コロナ対策は、厚労省の感染症の部局と感染症を専門とする医師という、医療全体からすれば非常に狭い範囲で決められてきた傾向があるということだ。
だから、現場から医療崩壊の危機が叫ばれても、大胆に医療体制を変えることができない。現行の感染症医療の行政ルールの枠内でしか動けず、国民の行動変容をひたすら求め続けるという策しかないのである。