昨年は、正月気分が抜けない頃から、日本をはじめ世界中が新型コロナウイルスのために混沌としている。コロナウイルスは多くの人を呑み込み、世界中の経済を、そして人々の生活さえも一変させてしまった。
私の専門分野は、鉄道だ。しかしその鉄道も、コロナ禍の中でもがき苦しんでいる。特に地方のいわゆるローカル線と呼ばれる路線は、今まさに存続の危機に立たされているところさえ多い。ある鉄道会社では、社長自ら「年度末には経営破綻」と公言しているほど、その被害は計り知れない。
そこで、ご批判の向きもあろうが、ここはひとつ、マスク・手洗い・咳エチケットなどの徹底を自分に課し、ローカル線と経済の救済、コロナ自粛で疲れた心のリフレッシュのために、「ローカル線の旅」へと出かけてみてはどうだろうか。言うまでもなく、現在複数の自治体に対して発令されている緊急事態宣言が解除されてからにしていただきたいが、地方は都内ほど「密」になる機会も多くはないだろうし、ローカル線ならばなおのことだ。
本稿が、ローカル線の旅へ出るきっかけになればと、現地の実況などを記させていただく。ルポの「続き」を執筆するのは、皆様にお願いしたい。
『伊豆の踊子』の冒頭文が
頭をよぎる修善寺への旅
『道がつづら折になって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい速さでふもとから私を追って来た』とは、川端康成の『伊豆の踊子』の冒頭文であるが、伊豆を訪れる度に、私の頭を駆け抜ける一文でもある。
2021(令和3)年春、特急「踊り子」号で使われているJR185系電車が、定期運用から離脱する。車齢が古いので、おそらく順次、廃車回送のため長野の工場に旅立つと思われる。JRに残った数少ない国鉄型の車両だ。その惜別の意味も含めて、昨年12月上旬、私は都内から修善寺まで1泊の温泉旅行に出掛けた。
修善寺温泉は、伊豆の温泉地の中でも最も歴史ある温泉である。その静けさや上品さから、私のお気に入りの温泉地だが、ちょっぴり高い。だが、今回は185系への惜別の旅も兼ねているので、少し奮発してみた。